前述したように計画経済体制の下では、企業が必要とする労働力は政府によって統 制され、多くの国有企業は大量の余剰労働者を抱えていた。しかし、改革開放以降は、 経済のグローバル化に対応した国際競争力の強化を迫られ、国有企業は大幅なリスト ラを行った。
このリストラによる離職者は「下崗」と呼ばれ、1997 年には 995 万人に達するなど、 大きな社会問題となった(図表7)。下崗労働者は、形式的には企業との雇用関係は存 続していたが、実際には元の企業に戻る可能性はなく、失業に近い状況にあった。
下崗労働者対策として、中国政府は、下崗労働者のいる企業内に再就職センターを 設置し、最長3年にわたり、一定の生活手当を支給するとともに、職業訓練や就職指 導を行って再就職を促進した。そして、3年間たっても再就職できない場合には、企 業との関係を完全になくし、失業者とした。
当初、下崗労働者の再就職は進まず、失業者は増加した。下崗労働者が再就職でき ない要因としては、?今まで国有企業で身に付けてきた能力、技術等が、他の企業で 通用しなかったこと、?下崗労働者が、今まで勤めてきた国有企業と同レベルの待遇 を望んだこと、?企業側が、下崗労働者を雇うより、より安い賃金で雇うことができ る出稼ぎ労働者を雇うことを選択したことなどが指摘されている。
その後、経済成長が進む中で、外資系企業や私営企業を中心に雇用吸収能力が増大 するとともに、これまでの下崗労働者に対する特別対策を廃止し、一般の失業者対策 への転換が進められた結果、下崗労働者は 2005 年末には 210 万人まで減少した。今後 も国有企業からの離職者は出続けるが、一般の失業者対策により対応することになる。
労働社会保障部は、下崗労働者問題については対策が進み、政府としての重点度合 いは低下していると説明している。