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ロシナンテ

2014年06月22日 (日) 21:34
ロシナンテ

第22章
いやなところへ、
いやいや連れられて行く不遇の民を、
ドン・キホーテが解放する。

残ったのは、驢馬と、ロシナンテと、サンチョと、ドン・キホーテで、驢馬は何を考えてか、うなだれていた。音立てて飛んでくる飛礫の嵐がまた襲ってくるかと怯えていたのか、時折、聞き耳をたてた。ロシナンテも石飛礫の襲撃を喰らって主人の側に倒れていた。丸裸のサンチョは、神聖同胞衆取締り方に怯えてひやひや、恩を仇で返されたドン・キホーテは、臟腑(はらわた)が煮えくり返っていた。

第23章
シエラ・モレナ山中。
いまをときめくドン・キホーテの
身の上のあれこれ。
真相を伝えて余さぬ
本編中抜群の椿事。

「下司下郎に恩を施すは大海に水を注ぐに等しい。やつらは恩を仇で返す。おぬしに耳を貸していれば、こんな目には遭わなかった。とは申せ、済んだこと。ここは堪忍の一字をもって、今後の戒めとしよう」

「わたくしなど、すぐに懲りる、こりごりの凝り性ですが、殿様もこれにお懲りあそばして」とサンチョ。「今後への戒めとすべきでありましょう。わたしの申すようになさっていれば此度(こたび)の災難はありませんでした。今後はそうして戴きます、そうすれば、転ばぬ先の杖、もっとひどい災難も避けられます。よろしゅうございますか、これは肝に銘じおきいただきます。取締り方に騎士道は通じません」

「…せっかくの忠告に耳を貸さない…」

「殿、退却は、逃走にあらず、賢者は、土壇場を、すたこらさっさ、明日に備えて今日をさらりとかわしまして、…」

第24章
シエラ・モレナ山中の椿事が続く。

逆運どこまでも厳しく、慰められようがないとなれば、共に泣いて差し上げるという道もござる。涙を分かち合う者があれば、いささかなりとも、お楽になるでありましょう。

天が定めた逆運に、地上の富が勝てなかったのです。…ルシンダは、それほど美しい女性でした。…間違いがあってはならない、という配慮から、ルシンダの父親が、家へ来るな、とわたしに申し渡しました。…来るなと言われると火に油を注ぐようなものです。

二人はもう出来ていたのです、結婚を餌に、娘をものにしていたのです。…若いときの恋というのは、大抵、恋ではなく、欲に過ぎず、若様の場合もそれだったわけです。

第25章
シエラ・モレナの山中、
ラ・マンチャの豪勇騎士の椿事。
騎士はベルテネブロスの苦行に倣う。

サンチョ「他人(ひと)は他人(ひと)。茶々いれ横槍お節介。嘴入れるは烏滸(おこ)がまし。買う買わぬは財布に相談。おまけにこれも付け足しましょう、裸で生まれ裸一貫。この世はおちゃらけ、損得無しのちゃら。転ぼと死のと、俺知らん。泥棒をお縄にするのに縄なくて、捕まえてから縄を綯(な)う。野っ原に柱が立たなきゃ戸は立たん、人の口にも戸は立たん」

「うるさい」

「それでは、殿様」とサンチョ。「お伺いしますが、人も通わぬ山中の、道なき道を、瘋癲捜しで彷徨(さまよ)い歩くのも、騎士道の掟にござりますか」

ホメロスが、思慮分別と忍耐強さの鑑として、オデユッセウスの苦難の人生を活写している。ウエルギリウスも、アエネアスという人物に気力と知力を兼ね具えた大将の器を見、優しい心根と、するどい眼力の鑑として褒め称えている。

「もう嫌だ、聞いていられない、ついていけませぬわいなあ、殿様、窶れ顔の騎士様、何もかも信じられなくなって参りました。騎士道がどう、国が手に入る、帝国を奪う、インスラを取らせる、あれをやる、これをやる、まあ、でかい話ばかり、遍歴の騎士の慣いなんでしょうが、法螺(ほら)と嘘と、はったり尽くしはもう沢山、いやはや、なんたることでござんしょう…そういう執念深いのは、いかれぽんちと言うんです」

はあ、あのお方であらせられますか、あのお方に何を差し上げなきゃいけないのでありますか。

第26章
シエラ・モレナ山中、
ドン・キホーテが恋患いを演じる。

山中に一人残った窶れ顔。

只の田舎者をここまで変えてしまうとは、ドン・キホーテの狂気はただならぬ、とも考えた。しかし、ここで、そううまくは行くまい、などとは言わなかった。この場でサンチョを迷妄から醒まさせるのは控えたのである。疚(やま)しいことをしているわけではないのだから、このままで良い、言うことの馬鹿馬鹿しいところが愉快だ、と納得し、そうであったか、では殿様の恙無きをお祈りしよう、あれだけの器だから、時宜を得て皇帝になる見込みはおおありだ、大司教か、その程度は固い、と調子をあわせた。

第27章
神父と床屋の計画、その首尾やいかに。
これなる大冒険物語に
無くては無らぬあれこれ。

ソネート詩

金蘭の篤き友情よ、君は
地に脱殻残し、天の大広間へ昇り、
天界に招かれし魂どものもとへ
欣喜雀躍、飛翔(はばた)いて、
気紛れに、真しやかな友愛を
薄絹に包んで見せてくれるが、
その気にさせて、
開けて見れば意地悪の塊。
友情よ、天界より降り来たりて、
せめて、欺瞞が友情を装い
誠意を裏切ることだけでも許すな、
地に偽りの友情が蔓延(はびこ)れば
世も末、乱世となって
原初の不和と混沌が戻ろう。

天の声や救いにも見放された気持です。お察しください。天は、わたしを育んできた大地に寇(あだ)なし、風は、吐息する糧さえ拒み、水は、目に涙を送ることを止め、唯、火のみが、怒りと嫉妬で燃え盛り、全てを焼き尽くす勢いでした。

この辛さは死んでも消えそうにありません。こういう目に遭う人は未来永劫、滅多にいないでしょう。


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