◎生命の庭
“あの時も俺は、こんなふうに狭い部屋の中を、檻に入った動物のように歩き続けていたのだ………”
「読もう。よし、読み切ってみせる!」
“三十四の「非」は、形容ではない。厳として実在する、あるものを説き明かそうとしているのだ”
彼は、突然、「あっ!」と息をのんだ。
「生命」ーーという言葉が、脳裏にひらめいたのである。
彼は、その一瞬、不可解な三十四の「非」の意味を読み切った。
ーー彼は、自然の思いのうちに、いつか虚空にあった。数限りない、六万恒河沙の大衆のなかにあって、金色燦然たる光を浴びて、御本尊に向かって合掌している、彼を発見したのである。
まるで、昔書いた日記を読み返す時のように、あいまいであった意味が、今は明確に汲み取れるのである。
◎時流
「今、アジアで、同じ民族が分断し、争うとしたら、これ以上の不幸はない。それを救うことができるのは、日蓮大聖人の仏法しかありません、一日も早く、東洋に仏法を伝えねばならない」
◎波紋
わずかでも時間があれば、読書をすることが、彼の体質となっていたのである。
書物は精神の滋養であり、苦闘に立ち向かう勇気の源泉となるーーそれは、伸一の実感であった。
彼の頭のなかには、仕事と読書が交錯することが幾たびもあった。
◎疾風
'“今の苦闘こそが、やがては自身の人間革命を成就する瑞相であり、同時に、父母を幸福にすることになるのだ。今に見ろ! 今の苦難に莞爾として進めばよいのだ。若いのだ。雄々しく歓喜を湧かせ、たぎらせて、前進また前進しよう。すべては、大御本尊様の照覧のもとにあるのではないか。誹(そし)る者には誹らせておこう。笑う者には笑わせておけ。そんなものがなんだ!”
◎怒涛
「なんだ? どうした」
「先生………」
「なんだね?」
「先生、今度、三島さんが理事長になると、私の師匠は三島さんになるんでしょうか?」
「いや、それは違う! 苦労ばかりかけてしまう師匠だが、君の師匠は、ぼくだよ」
「伸、どうした?」
「いや、先生、いいんです」
「先生、お休みなさい」
◎秋霜
古(いにしえ)の
奇(く)しき縁(えにし)に
仕えしを
人は変われど
われは変わらじ
幾度か
戦の庭に
起てる身の
捨てず持(たも)つは
君の太刀(たち)ぞよ
色は褪(あ)せ
力は抜けし
吾が王者
死すとも残すは
君が冠(かんむり)