いずれ劣らぬ命知らず、奮い立つ両者は玉散る刀を高々と振り上げた。その鼻息、その形相には、天が震え、地が揺らぎ、奈落の底も割れんばかり。先手をとって打って出たのは烈火のビスカヤ男であった。激しい、なんてものはない。その破壊力や、太刀が虚空を泳いでなければ、一撃で勝敗を決めていた。すなわち、我らの頼もしき騎士殿の武者修行もその後が瞬く一巻の終わりか、という決定的瞬間であったのだ。が、そこでドン・キホーテに強い運が効(はたら)いた。あわや、という刹那にきまって駆けつける救急の幸運の神が、このたびは、相手の太刀の向こう先を逸らせたのである。
手応え確か、剣は、相手が楯と頼む座布団をものともせず、一筋、脳天を襲った。
「この上さらに懲らしめるべき由無しとはしないが、お言葉に免じて矛を納めよう」