二の巻
第9章
かたやビスカヤに勇、
こなたラ・マンチャの剛、
竜虎相打つ激闘が終結、幕となる。
命知らずのビスカヤ男と、いまをときめくドン・キホーテ。両者、抜き身を振り翳(かざ)しての勝負である。いずれも大上段、真っ向から唐竹割に切り下げる必殺の構え。
ちらと見せてその気にさせておいて、先が見たけりゃ勝手に捜せ、とはあまりにも酷い。
ある日のこと、我輩はトレドの繁華な小間物屋であるアルカナ通りにいた。
何がそんなに可笑しいのか、と問うと、余白の添え書きが、と言う。何と書いてあるのか、と訊くと腹を抱えた。
「ここですよ。こう書いてあります『名が頻繁に出るこの女、ドウルシネア・デル・トボーソは、豚の脂身の塩漬け作りにかけては、ラ・マンチャで、右に出る者がないとの評判』」
紙束の第一冊目には挿絵が入っている。ドン・キホーテとビスカヤ人の戦闘の図である。
虚言癖が民族の性(さが)であるからだ。アラビア人はわれわれキリスト教徒の宿敵でもある。