第5章
われらの騎士の災難の話が続く。
身動きできない。そう分かると、ドン・キホーテはいつもの手に訴えることにした。
息も絶えんばかりの名調子である。
「いとしの君よ、いずこにありや、この痛みが、君には痛みませぬか、みどもの苦境をご存じないか、それとも、うわべばかりの不実のお方であったか」
「気高きマントウア侯よ、伯父うえにして骨肉の殿よ」
「キハーナ様」
「旦那様をこんな目に、一体誰が」
農夫はしぶしぶ。
「まったくなさけない。旦那様、何がドン・ロドリーゴ・デ・ナルバエス殿ですか。おらは城主殿じゃありませんよ。…」
「ばかこけ。自分がだれであるか、分からんでどうする」とドン・キホーテ。
「学士様、ペロ・ペレス様」神父の名である。うちの旦那様、ほんとうにどうなさったのかしら、心配ですわ、…」
姪も同じようなことを、もっと激しく、延々と連ね、
「そうなのよ。まったく、親方、ニコラスさん」髪を切り血も抜く床屋に言った。「人を狂わす無茶修行の本ばっかり。そうなんです。…」
「騒ぐほどのことではない。申しておくが、深傷を負ったは我輩のせいではないぞ、馬のせいだ。それはそれ、とにかく、早く横にならせてくれ。それから、出来ることなら、女賢人ウルガンダを呼んでくれ、体を診てもらって、手当ても受ける」
「なんたることか」神父がぼやいた。「羅刹族まで絡んできよったか。いよいよ放っておけません。何がなんでも、本はあした、明るいうちに焚いてしまおう」