第3章
ドン・キホーテ、
騎士に叙任される。
それに至る滑稽な次第。
「騎士殿、おそれながら、お願いの儀がござる。お聞き届けあるまではここを動きませぬ。騎士殿の名を高めこそすれ、貶めぬばかりか、遍(あまね)く世のためになることでありまする」
「…明吉日、わたくしめを騎士にして下されたく存じまする。…念願叶いますれば、晴れて騎士の身で、天(あま)が下、三千世界に冒険を求めて旅立つ所存にございまする。弱きを助くは騎士の道、遍歴の騎士の努め、そのために尽くしたいと騎士はひたすら願うものであります」
めがねに違わぬ大物の騎士の器。さればこそ、何を隠そう、…後家とみれば口説き、乙女を手折り、小僧どもを騙し、…財産は、自分のものは自分で使い、他人様のものも分け隔てなく使わせてもらい、遍歴の騎士とみれば地位身分を問わず誠心誠意、城でもてなし、謝礼といえばご持参のものをちょっとばかり頂戴するだけ。
今後は路銀をお持ちなさい
「君に心をとらわれし騎士にこそ麗しの眼差しを授け給え。君ゆえにかかる苦難を耐える騎士をお見捨てあそばすな」
触らぬ神に祟りなし。
第4章
さて、旅籠を出た騎士殿は。
騎士殿は旅籠を出た。
「…我輩は、何を隠そう、正義を貫く豪勇ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、不埒の鬼や羅刹の退治を努めようとする者である。では、さらばじゃ、最後に一言、ゆめ忘れるでないぞ
約束し、誓った一件と、いま申した懲罰のこと」
やがて、道が四つに分かれる辻にさしかかると、ドン・キホーテは手綱を引いた。運命の分かれる十字路である。どの道を行くか。…じっくりと思いを回らした末、手綱を緩め、馬の気の向く任せることにした。と、馬は初心を曲げず、自分の厩への道を行った。
哀れ、ドン・キホーテ殿は、鎧兜の上からではあったが、粉々に裂けんばかりに打たれた。