第2章
奇想天外の
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ
第一回目の門出
準備万端、行動開始である。
自分は正式には騎士になっていない。
これに思い至って出端を挫かれた。
『アポロンの陽は空を茜に染め、髪は黄金の一筋ひとすじ、果てし無い大地のかんばせにぞ輝けり。小鳥は満艦飾(ばんかんしょく)。囀(さえずり)甘く、竪琴の音の妙(たえ)にして、さそわれて出る曙の神は薔薇色。共寝の褥(しとね)に未練の夫を残し、まぶしくもラ・マンチャの地平に扉をあけて露台の上、生きとし生ける者の前に立てば、おりしも、ラ・マンチャにその人ありと謳われるドン・キホーテ、その騎士も、やわらかき羽根の褥を蹴りて出で、雷名轟くロシナンテにこそ打ち跨がり。向かう旅路は、いにしえよりモンテイエルと人の呼ぶその大平原』
「お姫様がた、お待ちください。某(それがし)は騎士道を奉ずる者、怪しい者ではありません。高貴な淑女に無礼をはたらくなど思いもよらぬこと」
「美しいお女中には慎みが似合うもの、些細なことで人を笑うのは不作法でありましょう。こう申すのは、難癖つけるためにあらず、御身らのためになりたいと願えばこそ」
「これはこれは騎士様、手前どもには寝台の用意がございませんので、そこはご辛抱いただくといたしまして、他をなんなりとお申し付け下さりませ」
「城主殿、拙者がなんで場所をえらびましょう。剣と槍さえあればこの身にはもう贅沢。一番の安らぎは戦場と心得ております」