第6章
空想の達人、
用済み侍の書庫において
神父と床屋が本を吟味する。
侍はまだ眠っていた。神父は侍の姪に頼んで有害書籍の書庫の鍵を持ってこさせた。
「とんでもない」と姪。「一冊も見逃しちゃいけませんわ。寄って集って伯父様を狂わしたんですから、どいつもこいつも庭へ放り出してください」
名前からして嬉しくなる、悦楽局(えつらくのつぼね)プラセール・デ・ミ・ビダなんて御殿女中がいて、これが煥発無類(かんぱつむるい)、いい女なんだ。さらには、名前がレポサーダ、すなわち多情という、百戦錬磨の寡婦(やもめ)の手練手管も見物でね。皇帝の奥方がテイランテの従者に蕩(とろ)ける濡れ場も盛り込まれている。それはもう、この種の読み物では世界の最高傑作といって過言ではない。
「『アンリヘンカの涙』」
「泣いちゃうよ」題名を聞いて神父が興奮した。「そんないい本を焼けと言ったんだ拙僧は。作者はイスパニアのみか世界屈指の大詩人だよ。オウデイウスの寓話の翻訳をさせても絶品だし」