にせものの李逵
三九 李逵、にせものの李逵を殺す
一団の人々が立札を見ていた。
「一番目は主犯、宋江、うん城県人。二番目は共犯、戴宗、江州両院節級。三番目は共犯、李逵、斤水県人。…」
「やい、おとなしく通行税をおいて行け!」
「何だ、きさま、追剥(おいはぎ)か!」
「おれの名前をきいたら、おったまげて腰をぬかすだろう! おれさまは黒旋風だ。金とつつみをおいて行けば、命だけはゆるしてとらすぞ!」
「ばかやろう! きさまはどこの何やつだ! よくもおれさまの名前をかたって、きいた風なまねをしやがるな!」
(おれはおふくろをひきとめるためにわざわざ郷里(くに)に帰って来た。それなのに母親を養っているやつをころしたら、お天道さまもゆるしちゃおくんなさるまい)
「…それでてまえには九十になる年よりのおふくろがございまして、てまえよりほかに養ってやるものがありません、てなことをいって、泣き言をならべて拝んだらよ、ばかなやろうだ、…」
(うぬ、けしからんやろうだ!)
(おれがもしも山賊になっているといったらおふくろは行くといわんだろう)
李達(あにきのやつ、きっと人に知らせに行ったんだな。これは早くずらかった方がいい)
「おっかあ、おっかあ!」
(こいつだな、おっかあを食ったのは!)
「おれは旅の者だ。昨夜おふくろといっしょにこの峠を通りかかり、おれが水をくみに谷川に下りてたあいだにおふくろを虎に食い殺されたから、四ひきぜんぶ殺してしまったんだ」
「まさか!」
「梁山泊の黒旋風がつかまったそうな、李都頭がいま逮捕に向かっているそうな」
明け方になって、遠くからドラの音がきこえ、やがて、村で一晩酒のふるまいをうけた三十人ばかりの兵士が、うしろ手にしばられた李逵をひったてながら来た。
朱富「ちょっと待った! 話があります」
「…それよりいっそのこと、わたしたちといっしょに山にのぼり、宗公明どのの仲間入りをなさったらいかがですか」
李逵「何だ、早く