三三 宋江、潯陽江(じんようこう)であわや命を落とさんとする
宋江「やれやれ、ありがたい! 渡る世間に鬼はなしというが、この船頭のあかげで、あぶないとこを助かった。この恩をわすれちゃいけないね」
「てめえら相手に冗談もクソもあるか! 『手打うどん』てなあ、ただ一太刀でひとりずつ水の中にきって落とすことよ。『すいとん』てな、てめえらの着物をはいで、まるはだかのまま水の中に投げ込むことよ」
「ええッ! そりゃおれのあにき、宋公明どのじゃないか?」
「あにき、びっくりなさったでしょう。もう一足おそかったら、やられてしまうところでしたな。どうも今日は胸さわぎがするもんだから、ちょっと船をだしてみたら……」
三四 宋江、江州にて戴宗(たいそう)・李逵(りき)と兄弟のちぎりをむすぶ
江州府の知事は蔡得章(さいとくしょう)といって、…欲がふかい上に、することがぜいたくでおごっていた。
節級(せっきゅう)「この黒んぼにチビ助め! だれの威光を笠にきて、おれにつけとどけをしないんだ?」
宋江「つけとどけというものは、するもしないも本人の自由だろう。それをむりによこせとは、何てケチな料簡だ!」
三五 黒旋風(こくせんぷう)と浪裏白跳(ろうりはくちょう)、水中にて格闘する
李逵「このやろう!」
宋江「おい、よせよせ!」
戴宗「またけんかしやがって! 人を打ち殺しでもしてみろ、死刑だぞ!」
李逵「あんたに迷惑はかけねえよ。おれが殺したら、おれが引きうけてやらあ」
「まあまあ、口論はよしにして、飲みにいこうよ」
三六 宋江、潯陽楼で酔って反逆の詩を書く
幼き時より書を読み
権謀胸にたくわえて
虎の荒野に臥すごとく
爪をかくして待ちにしを
うたてや入墨入れられて
流され人とならんとは
ああ、うらみ報ゆる時来なば
鮮血(あけ)に染めてん潯陽江
心は東、身は南
浮草の身のうたてさよ
望みとげなん時来なば
かの黄巣(こうそ)も何のその
(黄巣は唐の時代の反逆者)
「これは反逆の詩じゃないか! だれが書いたんだろう」
国をみだすは家の木で
いくさをおこすは水の工(こう)
縦横三十六のかず
乱のおこりは山東から
「こんどこそ、もう命はないぞ!」
「こうなっては仕方がありません。気ちがいのまねをなさることです。それにはこうこう……」