三〇 霹靂火(へきれきか)秦明(しんめい)、焼野原を走る
花栄は笑いながら答えた。
「秦統制どのよ。そんなにやきもきしない方がよいですぞ! 今日は帰ってお休みになさい。明日はあなたが死ぬかわたしが生きるか、はっきり勝負をつけましょうから」
秦明はおこってどなった。
「やい、謀反人め、さっさと下りて来んか! はやくここへ来て尋常に勝負しろ」
「秦総管どのよ。しかしね、あなたは今日はさぞかしお疲れでしょうから、わたしが勝ったところで、てがらにゃなりませんからな。まあ今日はお帰んなさい。万事は明日にしましょうや」
三一 小李広(しょうりこう)花栄(かえい)、雁(がん)を射おとす
「ここから南へ行った梁山泊は方円八百余里からあり…」
「やい、今日こそどっちが勝つか、かたをつけようぞ!」
宋江はふたりを仲直りさせて、われらの仲間に加わっていっしょに梁山泊に行かないかとすすめた。ふたりは大いに喜んで、さっそく二百余人とともに一行に加わった。
三二 宋江、偈陽嶺(けつようれい)で李俊(りしゅん)ら四豪傑に会う
「ちかごろ世間には悪いやつがたくさんおって、まんまとやられる好漢もずいぶんおるそうですな。酒や肉の中にしびれ薬をしこんで、ひっくりかえし、金をとった上、そいつの肉を饅頭のあんにするんだという話ですが、ほんとうでしょうかね? まさかと思いますな」
「それがね、この四、五カ月さっぱりだめだったのがきょうはいいかもを三羽もつかまえたんだ」
「よかった!」
さっそく毒けしの薬を調合し、宋江をだきおこしてのませると、宋江はだんだん気がついた。四人の男はハッと平伏した。宋江は目をパチパチさせていった。
「ここはどこだろう? してあんたがたは?」