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日章丸

2013年12月03日 (火) 23:25
日章丸

海賊とよばれた男 下

第三章 白秋 昭和22〜28年

一、正明
「何ば言うか。ぼくは六十二歳で、今でっちゃ第一線でやりよるとぜ。国岡商店も戦争で何もかも失くしたばってん、こげんしてなんとか頑張りよる。お前の満鉄で鍛えた知恵ばぜひ、国岡商店で生かしてくれんね」

二、セブン・シスターズ
「私は商工大臣とも親しいのだが、君が将来性のある素晴らしい男であることを彼に伝えておくよ」

三、進水
「日本にとっては特需をもたらしましたが、朝鮮人にとっては、悲劇以外の何物でもないですね」

暗いトンネルを抜けるまで、あとわずかだ──。
しかし試練はなおも国岡商店に襲いかかった。

「虎穴(こけつ)に入らずんば虎児(こじ)を得ずともいう。あえて敵の待つ火中に飛び込む勇気を持たねば、今後、彼らと戦っていくことはできない」

四、新田辰男
「私はこの船で、世界を相手に戦いたいと思っている」

「あなたの会社の資本金に対しては、とても融資はできない。しかしあなたの会社の合理的経営に対してなら融資できる。われわれはあなたの会社と取り引きすることを名誉と思っている」

一国の命運を握っているのは石油であるという信念をあらためて強くした。そしてこれからは石油を、平和のため、日本の復興のために使うのだと決意した。国岡商店の使命はそこにある。

しかしメジャーは黙って国岡を暴れさせるほど甘くはなかった。

五、イラン石油
「あれは駄目だと言ったはずだ」

石橋は気さくな感じで、「今、私のところにホス何とかちう名前の珍しか人が来とるけん、ちょっと遊びにおいでんですか」

「いや、兄さん、最初はぼくもそう思っていた。でも、そうとばかりは言えないようなんだ。ぼくらが知らされている情報は全部、イギリスからのもので、実情はかなり違うらしい」

「イランは絨毯を織る者と、絨毯の上に座る者の二つの階級しかない」

泥棒はイランではなく、むしろイギリスではないか。

「一年前の三月か──」
「日章丸の起工式をおこなったときだな」

「イランがイランの石油を失えば、世界の覇権を失うことになるからな」

六、極秘任務
「イランの石油を買おう」

「リスクのない商売はない」

「君たちはイランとの取引で、国岡商店の未来を心配しているようだが、これは未来を拓くための取引である。国岡商店は今、国際カルテルの包囲網の中でもがいている。彼らは配下におさめた日本の石油会社と手を結び、国岡商店をつぷそうとしている。このわれわれの状況は、国際社会におけるイランと同じ状況である」

「イランの苦しみは、わが国岡商店の苦しみでもある。イラン国民は今、塗炭の苦しみに耐えながら、タンカーが来るのを一日千秋の思いで、祈るようにまっている。これをおこなうのが日本人である。そして、わが国岡商店に課せられた使命である」

「パキスタンはオート三輪なんか買わない」

「日本の中古のオート三輪は安い。しかし優秀だ」
「パキスタンのために尽くしてほしい」

「武知常務、オート三輪の報告書です」

七、モサデク
イギリスは五十年にわたって、この国の財産をほしいままに吸い尽くし、何も与えなかったのだ。
イラン国民のイギリスに対する激しい憎悪の理由がわかる気がした。

首相官邸は驚くほど質素なものだった。
…この部屋がイラン首相モザデクのオフィス兼ベッドルームだった。

「しかし、実際にイランにタンカーを持ってきた国はひとつもない」

八、決断
「日章丸をアバダンに送る」

「半年あればなんとかなる」

「六十七歳で乞食になるとは思わなかった」

九、サムライたち
「礼を言うのはこっちのほうです。日本のために、よくぞやってくれました」

「万が一のときには──」「沈むかもしれない」

十、「アバダンへ行け」
本来なら多くの国民に熱狂的に見送られるはずのものなのに、国岡商店の重役さえも参列しない寂しい出航であることが、悔しくてならなかった。

無事任務を果たして戻ってくることができたなら、満寿子に百回でも土下座しよう。ああ、満寿子の怒る顔が見たい。

「今から本船は、本社からの指令により、イランのアバダンに向かう」

「世界の石油業界は『七人の魔女』と呼ばれる欧米の石油会社に長い間支配され続けてきた。イランはそれに立ち向かった勇気ある国である。しかしイランはそのために厳しい経済封鎖を受け、彼を助ける者は誰もない中、世界から孤立し、困窮に喘いでいる」

十一、輝く船
しかしそれ以上に新田を驚かせたものがあった。それは港を取り囲んでいた何万人と言う群衆だった。

長い経済封鎖によって困窮に喘いでいたイランの民衆にとって、はるか極東の国からあらわれた巨大なタンカーは救世主のように見えたのかもしれない。

「…なお、イランの石油はイランの国民のものであり、イギリスの主張は通らないと考えております」

「これは特別にいいガソリンか」
「これはいつものガソリンだ」
「イランの石油はどこにも負けない」

十二、倭寇
北九州沿岸から瀬戸内海にかけて暴れまわり、同業者たちから「海賊」と恐れられた自分が、四十年後に大英帝国を相手に戦うことになるとは──。これが己の宿命だったのか。

十三、府仰天地に恥じず
「私は日本人として、府仰天地に恥じない行動をもって終始することを、裁判長に誓います」

十四、完全勝利
「あなたのお陰で大恥をかいた」
「私にイラン行きのことを言わなかったでしょう」
「ラジオで日章丸がアバダンに着いて大騒ぎになっていると聞いて、私はあなたがお酒を飲んで、行き先を間違えて大事を引き起こしたのかと思って…」
「馬鹿もん!」「俺が何十年船に乗っていると思っているんだ。今まで港を間違ったことなどあるもんか」
「あなたは昔、大連に住んでいたころ、酔っぱらって帰って、お隣の中村さんのお宅の玄関の戸を何回も叩いたのを覚えていますか?」

「あなたは私の誇りです。ありがとうございました」

「勝つとわかっているものを勝っただけのことだ。喜びはない」

「ぼくは武知君と正明が契約を成立させたときに、この勝負に負けはないと思った。そして日章丸が石油を積んで、南シナ海に出たという無電を打ってきたとき、勝った、と思った。この勝利を最後にもたらしたのは、日章丸の乗組員たちだ」

モサデク首相から鐵造に
「あなたの芳情(ほうじょう)に対し、心より感謝します」

今や日本とイランはひとつになった。
正式な国交さえなかた二つの国が、石油という太いパイプで結ばれようとしていた。


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