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税研9月号

2013年10月02日 (水) 11:10
税研9月号

リポート:相続人の一部が行方不明である場合の遺産分割協議の方法等
参考図書:税研2013年9月号P.96

Q:長男からの相談。

私の父(被相続人P)が死亡し、その法定相続人は母(妻)と私(長男)と弟(二男)です。

父は公正証書遺言を残しており、自宅の土地建物は母に相続させ、その他の遺産は全て私に相続させる内容になっています。

父は晩年、自宅で療養し、母は献身的に父の看病をしてきました。

また、私は父の自宅土地建物の住宅ローンの一部を立て替えてきました。

これに対し、弟は多額の借金をしていて、父が債権者に立て替え払いをしたことがありますが、何年も前から音信不通で行方不明です。

母と私は、遺言の内容とは逆に、私が自宅土地建物を取得し、預貯金等の資産を母とが取得することを希望しています。

この場合、母と私の2人のみで遺言内容と異なる遺産分割協議をすることはできますでしょうか。

A お母さん(妻)とあなた(長男)の2人のみで遺産分割協議をすることはできません。

【検討】
1 遺言と異なる遺産分割協議の可否
被相続人の遺言書がある場合でも、相続人の協議により、遺言内容と異なる遺産分割をすることは可能です。

東京地裁平6.11.10は、
・その遺贈を受けた相続人が遺言の内容を知りながら、これと異なる遺産分割協議をした場合には、その遺産分割協議はその遺言に優先する。

・特定の受遺者は、いつでも遺贈の全部または一部を放棄することができる。

・自己に有利な遺言の内容を知りながら、これと異なる遺産分割協議を成立させた場合には、特段の事情がない限り、遺贈の全部または一部を放棄したものと認めるのが相当。
と判示しています。

2 相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効

・ただし、遺産分割協議は全相続人によってなされなければならないから、分割当事存在した共同相続人の一部を除外してなされた協議は無効であり、全ての相続人が再分配の協議、調停または審判を求めることができる。

・遺産分割協議から除外された相続人が行方不明の場合であっても異なりません。

3 不在者財産管理人の選任
どうしても遺言内容と異なる遺産分割をしたいというのであれば、家庭裁判所に弟さん(次男)の不在者財産管理人の選任の申立てをした上で、妻と長男及び選任された二男の不在者財産管理人の3名で遺産分割協議を行うべきです。

なお、遺産分割調停の申立てと同時に、不在者財産管理人の選任を申し立てることも可能です。

また、不在者に配偶者や子供がいれば、それらの者を不在者財産管理人の候補者として裁判所に推薦することもできます。

もっとも、不在者財産管理人は、不在者に対して善管注意義務を負っており、二男に遺産を一切与えないとする遺産分割協議をすることも事実上不可能でしょう。

また、裁判所が定める額の報酬を不在者財産管理人に支払う必要があることに留意すべきです。

4 遺言内容のとおりの遺産分け
妻及び長男の主な目的が、「二男には遺産を与えたくない」という点にあるとすれば、遺言の内容のとおりにする方が最も簡便であります。

二男には遺留分がありますが、行方不明状態の二男から実際に遺留分減殺請求権が行使されることは稀でありましょう。

5 遺留分減殺請求に対抗する手段
仮に次男が遺留分減殺請求権を行使してきたときは、妻及び長男はそれぞれの寄与分(民法904-2-1。遺産の維持・増加に特別の寄与をした相続人の相続分を増加させるもの)を主張すると共に、二男が被相続人から特別の利益(民法903。被相続人から生前に贈与を受けた相続人の相続分を減少させるもの)を受けたことを主張して、二男の遺留分がなるべく少なくなるよう交渉することが可能性です。

当事者間の協議がまとまらなければ、遺産分割調停を申し立てることになります。


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