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【十選】逆境から生まれたアート(7)
エドヴァルド・ムンク「スペイン風邪をひいた自画像」 アート・エデュケーター 宮本由紀
日本経済新聞 朝刊 文化(40ページ)
2020/11/11 2:00
"恐ろしさに震えながら、僕は大自然を貫く終わりのない叫びを感じた"。ムンクは「叫び」についてこう書いている。二十数年後の1919年、今度は、自分は生きるのだ、という"心の叫び"を、まるで開けた口から吐き出すかのように描いている。
ムンクは弱った心身の状態にある療養中にあえて自画像を描き、徹底して自己を見つめたのだ。この姿勢には、客観的に"今"を見つめるマインドフルネスにも通じる感覚を抱く。
この風邪により若くして命を落とすシーレをはじめとする画家たちもいた中、ムンクは80歳まで生を全うしているのだ。(1919年、油彩、カンバス、150×131センチ、オスロ国立美術館蔵)