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【FINANCIAL TIMES】アントが踏んだ虎の尾
イノベーション・エディター ジョン・ソーンヒル
日本経済新聞 朝刊
2020/11/11 2:00
だが、直近のエピソードからは、アリババの創業者でアントの筆頭株主でもある馬雲(ジャック・マー)氏のような、大きな影響力を持った大富豪の実業家でさえ、中国共産党の指示に従う必要があることも明らかになった。どうやら、中国の規制当局は馬氏が先月の講演で「官僚主義がイノベーションを阻害している」と語った発言を快く受け止めなかったようだ。当局は11月初め、同氏とアント首脳を「監督面談」なるものに呼び出し、上場を中止させた。
大半の欧米企業は自社を企業向け(BtoB)企業か消費者向け(BtoC)企業として位置付けている。だが、アリババのミン・ゾン最高戦略責任者(CSO)が著書「スマートビジネス(邦題『アリババ 世界最強のスマートビジネス』)」で説明しているように、同社は個人が企業と取引する「CtoB」企業として展開している。ネット接続とデータ分析のおかげで、顧客の需要を見越し、急激な需要変動にも容易に対応できるのだという。
馬氏が言うように、アントは、金融を主体に技術を駆使するフィンテック企業ではなく、技術を主体に金融を扱う「テックフィン」企業だと自社を定義している。皮肉なことに、これが、アントが規制当局の怒りを買った理由の一つだったのかもしれない。今後はもっと銀行のように振る舞い、バランスシート上により多くの融資を抱えなければならなくなるかもしれない。
そして3点目は、すべてのテック企業は、事業活動を続けるためには社会的に認められるだけでなく、政治的にも認められる必要があるということだ。どれほど強大な力を持つようになっても、テック企業は政治という虎の尾を踏む愚を犯してはならない。
アントがこれほど成功したのは従来とは全く逆の発想で事業を築き上げてきたからかもしれない。だが、既成概念にとらわれないことを糧にしてきた同社でさえ、中国の政治的なしがらみからは絶対に逃れられない。同社は先日「規制に喜んで応じる」と約束した。