◎雨中に燃え立つ広布の闘魂
「人の家に、宗教の話なんかしに来る前に、自分の仕事を見つけてこいよ。それに、そんなに、すごい信心なら、なぜ、子どもが病気ばかりしているんだ!」(中略)
友人は、終始、薄笑いを浮かべ、蔑むような言い方であった。
夜道を歩き始めると、無性に悔しさが込み上げ、涙があふれて仕方がなかった。涙に濡れた頰に、ピシャリと水が滴り落ちた。雨だ。あいにく傘は持っていなかった。雨は、次第に激しくなっていった。(中略)
二時間ほど歩いたころ、文京支部の会合で山本伸一に激励されたことを、ふと、思い起こした。
「折伏に行って、悪口を言われ、時には、罵詈罵倒されることもあるでしょう。また、悔しい思いをすることもあるでしょう。それは、すべて、経文通り、御書に仰せ通りのことなんです」(中略)
壮年は、伸一の指導を思い返すうちに、“山本室長は、今ごろ、どうされているのだろうか”と思った。(中略)
“室長は、学会の正義を叫び、必死に獄中闘争を展開されている……。その室長と比べれば、自分は、なんと恵まれた環境にいるんだろう。こんなことで、弱気になったり、負けてしまったら、室長は慨嘆されるにちがいない。負けるものか!”(中略)
◎〈56年(同31年)秋から山口開拓指導が展開され、山本伸一の激励で数多くの同志が立ち上がった。防府で行われた座談会では、伸一はさまざまな質問に答え、活況を呈した〉
質問が一段落したころ、口ヒゲをはやした一人の壮年が発言した。友人として参加していた地域の有力者であった。
「わしは、ここにおる者のように、金には困っとらん。今、思案しとるのは、これから、どんな事業をしようかということじゃ。ひとつ、考えてくれんか!」(中略)
伸一の鋭い声が響いた。
「学会は、不幸な人びとの味方です。あなたのように、人間を表面的な姿や立場、肩書で見て、蔑んでいるような人には、いつまでも、学会のことも、仏法もわかりません!」
地域の有力者は、伸一の厳しい言葉にたじろぎ、あっけに取られたように、目をぱちくりさせていた。
伸一は、諄々と語り始めた。
「ここにおられる同志の多くは、経済的に窮地に立ったり、病で苦しまれています。しかし、その苦悩をいかに乗り越えていこうかと、真剣に悩み、考えておられる。しかも、自ら、そうした悩みをかかえながら、みんなを幸せにしようと、冷笑されたり、悪口を言われながらも、日々、奔走されている。(中略)
本当に人間が幸福になるには“心の財”を積むしかない。心を磨き、輝かせて、何ものにも負けない自分自身をつくっていくのが仏法なんです。その仏法を弘め、この世から、不幸をなくしていこうというのが、学会なんです」(中略)
話が終わると、大拍手に包まれ、友人のほとんどが入会を希望した。有力者の壮年も感服し、入会を決意した。(中略)
有力者の壮年は、興奮を抑えきれない様子で語った。(中略)
「すごい青年がいるもんじゃ。一言一言、胸をドンと突かれるようで、後ろにひっくり返りそうで、こうやって、手を畳について、体を支えておったんじゃ。こりゃあ、本当にすごい宗教かもしれんぞ!」
(「共戦」の章、136〜138ページ)
◎ 〈酒田英吉も、山口開拓指導の折に、山本伸一の激励を受けた一人だった。彼は山本室長に会うため、40キロほどの道のりをバイクで駆け、伸一のいる旅館に向かった〉
彼(酒田英吉=編集部注)が旅館に到着すると、座談会が行われていた。(中略)
目の不自由な一人の婦人が手をあげて質問した。――子どもの時に失明し、入会して信心に励むようになって一カ月ぐらいしたころ、少し視力が回復した。しかし、このごろになって、また、元に戻ってしまった。果たして、目は治るのかという質問である。(中略)
「辛いでしょう。本当に苦しいでしょう」
彼は、婦人の手を取って、部屋に安置してあった御本尊の前に進んだ。
「一緒に、お題目を三唱しましょう」
伸一の唱題の声が響いた。全生命力を絞り出すような、力強い、気迫のこもった、朗々たる声であった。婦人も唱和した。
それから、伸一は、諄々と語っていった。
「どこまでも御本尊を信じ抜いて、祈りきっていくことです。心が揺れ、不信をいだきながらの信心では、願いも叶わないし、宿命の転換もできません。(中略)
あなたは、自分も幸せになり、人びとも幸せにしていく使命をもって生まれた地涌の菩薩なんです。仏なんです。一切の苦悩は、それを乗り越えて、仏法の真実を証明していくために、あえて背負ってきたものなんです。(中略)
何があっても、負けてはいけません。勝つんですよ。勝って、幸せになるんですよ」
誰もが、伸一のほとばしる慈愛を感じた。婦人の目には、涙があふれ、悲愴だった顔が明るく輝いていた。