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デジタル行政 怠慢の20年(上)
明暗分けた国民番号
国への不信、払拭から
日本経済新聞 朝刊
2020/10/7 2:00
行政のデジタル化を掲げる菅義偉政権が発足した。だが日本政府は20年前にも「5年で世界最先端のIT(情報技術)国家を目指す」との目標を掲げていた。過去の失敗の教訓と改革成功へのヒントを探る。
北欧のデンマーク。国民にとって「役所」とはほぼデジタル空間上の存在を指す。約580万人の全国民の8割がデジタルIDを持ち、給付金や税金など役所からの通知は全てネット上の「電子私書箱」に届く。
●ネット上で完結
住所変更、入学手続き、年金……。生活に関わるほぼ全ての手続きがオンライン上で完結する。離婚もワンクリックでできるため、3カ月間の冷却期間を設けることが一時的に法律で定められたこともある。デジタル行政が当たり前のように生活の随所に行き渡り、国連の電子政府ランキングでは1位に輝く。
デンマークが取り組みを本格化したのは2001年。デジタル署名制度の開始を皮切りに政策を推し進めた。07年に公共機関に統一のIT基盤の使用を義務化。14年には15歳以上に電子私書箱の使用を原則として義務付けるなど、行政のあり方を変えてきた。
一方の日本。新型コロナウイルス禍で露呈したのは行政手続きをいまだに紙に依存した「アナログ国家」の姿だ。00年に「IT基本戦略」を打ち出したのに、世界の背中はむしろ遠ざかった。
両国の20年間を大きく分けた要因の一つに、国民番号制度がある。デンマークでは1968年に始めた番号制度を使い、その基盤の上にデジタル行政の枠組みを整えた。韓国やエストニアなど先進的な取り組みで知られる国はほぼ全て同様の制度が浸透している。
日本のマイナンバーカードの普及率はわずか2割弱。政府が情報を一元的に管理することへの国民の不信感を拭えないことが、普及を阻む最大の壁だ。デンマークでは「国との情報共有は必ず本人の同意が要る」(同大使館の上郡明子上席商務官)など、利便性と安全性のバランスを取る工夫に余念がない。
デジタル化が政権の最優先課題になったことが一度もなかった日本では改革のスピードも遅い。
漢字規格化に17年
民間出身で政府CIO上席補佐官を務める平本健二氏が「この20年間で数少ない成功事例だ」と語るのが約6万字に上る漢字の国際規格化だ。端末や機種に関係なく正しい漢字が表示できるようになった。デジタル行政に欠かせない一歩だが、IT戦略策定から実現まで17年もかかった。
米政府はデジタル投資の進捗や評価を国民がネット上で簡単に把握できる。日本では各省庁別の投資額を調べようとしても17年度までしか更新されていない。
官僚にとって業務のデジタル化は政策立案などに比べて優先度の低い仕事だった。情報漏洩など失敗のリスクがある一方、やらなくても平時は問題にならない。「怠慢の20年」の繰り返しを防ぐには、官僚の背中を押す仕掛けが要る。
菅政権誕生で再びデジタル化のスタートラインに立った日本。コロナで国民の関心が高まったこの機を逃せば、世界の背中は全く見えなくなる。