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揺らぐ秩序、「盟主」に試練
陰る自由貿易、新冷戦の足音
日本経済新聞 朝刊 東西ドイツ統一30年特集(6ページ)
2020/10/3 2:00
●メルケル独首相
「中国は経済的にかなり強くなった。公正な競争条件を求めるのは当然だ」。
●習近平
「人権の先生はいらない」
メルケル氏が首相就任後の15年で12回訪中し、蜜月とまでいわれた関係に隙間風が吹く。
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ドイツでは2016年の中国企業による独産業用ロボット大手、クーカの買収を契機に、中国への警戒論が高まった。中国進出企業への技術移転の強要問題が重なり、中国は国家の利益を追求するために資本主義の「いいとこ取り」をしているとの疑念が消えない。
そんな中国は切り捨てよとばかりに、米国は次世代通信網(5G)からの華為技術(ファーウェイ)排除をドイツに求めている。だが、在独米軍の縮小を宣言し、自動車への関税引き上げをちらつかせるトランプ米大統領も、安心できるパートナーとは言えない。
1990年のドイツ再統一が象徴する冷戦の終結は、国防費の削減などによる「平和の配当」を世界にもたらした。鉄のカーテンが崩れ、人とモノとカネ、情報が行き交うグローバル化が加速し、その恩恵をもっとも受けたのがドイツだった。
ドイツは30年前、悲願の再統一を実現するため、独経済の強さの象徴だった通貨マルクを捨て、欧州統合に踏み込む決断をした。1999年に導入した単一通貨ユーロは「システム的に脆弱な性質を持つと市場参加者はみていた」(欧州中央銀行のトリシェ元総裁)が、その弱さが輸出主導のドイツ経済には奏功した。
冷戦後のグローバル化と弱いユーロ、その後の労働市場改革も加わり、ドイツは経常黒字と財政黒字を膨らませ、失業率も引き下げた。輸出の国内総生産(GDP)比は30年前の約2割から5割近くにまで上昇。世界平均の約3割、日本の2割弱を大きく上回る。
欧州連合(EU)の東方拡大もプラスに働いた。強権政治のハンガリーやポーランドとは政治的な争いが絶えないが、地理的に近く、人件費の安さでドイツ経済を補完する両国とは切っても切れない関係にある。
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メディアや司法を抑圧しながら海外からの投資は積極的に受け入れるハンガリー政治は、独裁(オートクラシー)と同国に進出した独自動車メーカーの名前をかけて「アウディ・クラシー」と呼ばれる。ドイツとの貿易額はこの30年でハンガリーが10倍、ポーランドが16倍に増えた。
急成長する中国に対しては、リスクに目をつぶって接近した。フォルクスワーゲン(VW)の販売台数のいまや4割は中国向けで、中国は米国などを抜いて最大の貿易相手国となった。
問題は、強いドイツの前提だった自由貿易や国際ルールに基づく秩序が急速に揺らいでいることだ。グローバル化による格差拡大もあって各国で保護主義が台頭。「トランプ氏、(ロシア大統領の)プーチン氏、中国によって損なわれた多国間主義」(ヘッセン平和紛争研究所のシュテファン・クロル氏)の立て直しが急務となっている。
ドイツ政府は9月2日、初のインド太平洋外交の指針を閣議決定した。中国の覇権も米中の新冷戦も許さず、開かれた市場を守ることが「死活的な利益」との立場を明確にした。日本やオーストラリアなど価値観の近い国々との連携を探っていく構えだ。
新たな冷戦の到来という歴史の逆回転は防げるのか。1980年代にモスクワで外交官を務めたドイツ外交協会のロルフ・ニケル副所長は、新冷戦という言葉自体が「自己実現的な予言になりかねない」と警告する。自国第一の狭量さと疑心暗鬼が対立に拍車をかける恐れがある。