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2020.10.1-4(3)

2020年09月30日 (水) 23:11
2020.10.1-

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【中外時評】米大統領選、他国介入の行方
客員論説委員 土屋大洋
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(7ページ)
2020/9/30 2:00

 前回の選挙では、ロシア政府が介入したと米国政府は断定した。クリントン候補や民主党全国委員会に関連する情報が暴露されたり、偽ニュースが流されたりした。

 クリントン候補が当選すると信じていたオバマ前大統領は、介入の事実に気づいていたものの、それを公表しなかった。しかし選挙結果に衝撃を受け、自身が最初に当選した08年の大統領選挙に遡って調査することを命じるとともに介入の事実を公表した。そしてトランプ政権が成立する直前、オバマ氏は次回の選挙に向けた手を打った。

◇◇

 米政府は16の分野を重要インフラに指定している。そのうちの一つが政府施設である。17年1月、政府施設に「選挙インフラ」を加えたのだ。

 これによって何ができるようになったのか。連邦軍による選挙の防衛である。

 オバマ政権1期目の10年に米軍はサイバー軍を編成した。サイバー軍司令官はインテリジェンス機関である国家安全保障局(NSA)の長官を兼務。軍とインテリジェンスをつなげる人事だった。

 そして18年になると米国の国政選挙である中間選挙において、またもやロシアが介入しようとしていることが明らかになった。国防総省は同年9月にサイバー戦略を発表し、サイバースペースで「前方防衛」を行うと発表した。

 米軍は国外に多くの基地を持ち、米国本土での戦争を想定していない。同じようにサイバースペースでも国外に前方展開する。平時から潜在敵国のネットワークに侵入しながら監視し、米国へのサイバー攻撃を検知した途端にそれを阻止してしまうという。

 18年11月の中間選挙では、実際にロシアの関係機関のネットワークを遮断したり、偽ニュースの工作員に直接メッセージを送ったりして介入を阻止したと報じられている。

 10周年を迎えた米サイバー軍の3代目の司令官は日系のナカソネ陸軍大将だ。彼の現在の最重要ミッションは、大統領選挙の防衛だという。

 そして今年の大統領選挙に介入しようとしているのは、ロシアだけでなく、中国、イラン、北朝鮮だと名指ししている。「敵自身よりも、我々は敵のことを知っている」とも公言している。

◇◇

 選挙介入の全貌は、選挙後でなければ公表されないだろう。しかし、すでにいくつかの兆候が見られる。例えば、ツイッターでは「これまでの人生ずっと民主党支持だったが、共和党支持に変えた」と始まる、似たような文言のツイートがたくさん見られる。米ツイッター社はそれらのアカウントを削除している。

 また、ブラック・ライブズ・マター運動関連のニュースを提供するウェブサイトが作られていたが、イランの関与が明らかになったのでドメインが削除された。

 米フェイスブックは、米国内在住とプロフィルに書きながら欧州から操作されているアカウントを止めている。

 トランプ大統領は郵便投票が不正を引き起こすと批判しているが、実際の投票に際しても多くの問題が指摘される可能性がある。

 外国の介入者の目的は、どちらかの候補を当選させることではない。選挙そのものを混乱させ、その当選者の正統性に疑問を持たせ、民主主義そのものに疑念を抱かせることである。

 どちらが当選するにせよ、コロナ禍の中での選挙を無事に実施できなければ、その後の混乱は避けられない。



 慶応大教授。月1回掲載します。


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