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人手不足産業に「出向」
政府、労働移動支援に軸足
雇調金 段階的に縮小
日本経済新聞 朝刊
2020/9/26 2:00
雇用政策の軸足が、これまで働いてきた企業での雇用維持から、人手不足の産業への移動支援に移り始める。政府は2021年1月から雇用調整助成金の特例措置を段階的に縮小するのに合わせ、業種を超えた出向や新たなスキルの習得を後押ししていく。「失業なき労働移動」に成功するかどうかが経済回復のカギを握る。
新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の収縮で、企業が内部に抱える休業者は一時600万人近くに膨らんだ。政府は従業員に休業手当を支払う企業を支援する雇用調整助成金の特例措置で雇用維持を図ってきたが、人手不足の産業への労働力移動を妨げるとの指摘も出ていた。
このため、厚生労働省は25日に決めた21年度予算の概算要求に労働力移動を支援するメニューを盛り込んだ。
国と都道府県の職業能力開発施設や、NPOが運営する教育訓練機関の教育費用を負担する。職を一時的に失った人が無料で職業スキルを学び、すぐに再就職できるように後押しする。要求額は990億円超とし、政府が予算案を決める年末の段階で積み増すこともできるようにした。
経営が厳しく雇用が過剰になった企業から人手不足の企業に向け、人材が在籍出向の形で移るのを支援する予算も求める。公益財団法人の産業雇用安定センターが人手の過剰業種と不足業種の両方から情報を集め、無料でマッチングする。同センターは47都道府県に事務所をおき、地域の業界団体と協力していく。
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厳しい情勢の続く雇用も、業種別にみるとばらつきが大きい。宿泊や外食などで就業者数の落ち込みが続く一方、人手不足が常態化している介護の有効求人倍率は7月に3.99倍に達した。
自宅から近い小売店やインターネット通販への消費シフトにより、スーパーや物流でも人材の需要は大きい。通販や在宅勤務を支えるデジタル人材のニーズも高く、情報通信業の7月の就業者数も前年水準を上回る。
第一生命経済研究所の田中理氏は「コロナによる社会の変化は長期化する」と指摘する。そのうえで「政府による特定企業での雇用維持策が長引くと、急ぐべき産業構造の転換が進まない」と語り、労働力移動に軸足を移していくことを主張する。
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社会人の再教育により、デジタル人材を育てる取り組みでは欧米に後れをとっている。日本の再教育は産学官の連携が乏しく、労働市場のニーズとの開きが大きい。厚労省と経産省は教育内容の改善を急ぐ。
英国は休業者の給与や所得の80%を支援してきたが、10月に60%に減らす。欧州各国はデジタル技術の学び直しへの支援策を充実することで、コロナ後の成長力を高めようとしている。
厚労省は中小企業に最大100%助成し、支給上限額も日額1万5千円に引き上げた雇用調整助成金の特例について、21年1月から縮小する方針をすでに示している。
日本の7月の失業率は2.9%と前月から0.1ポイント悪化し、年末にかけてさらに上昇していくとみられる。厚労省の集計では、コロナ関連の解雇・雇い止めは見込みを含めて6万人を超えた。
雇用調整助成金による支援を急速に縮小すれば失業率の急上昇や社会不安を招く恐れもある。厚労省は雇用情勢や労働力移動の状況を見ながら、慎重に進める考えだ。