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【The Economist】
独首相、プーチン氏に我慢の限界
日本経済新聞 朝刊
2020/9/15 2:00
●ドイツのメルケル首相とロシアのプーチン大統領は長期にわたり首脳同士の関係を続けてきた(2019年12月、パリ)=ロイター
ロシアのプーチン大統領と政府関係者は、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の名前を公の場で口にすることを拒んでいる。同氏は8月20日に西シベリアからモスクワに向かう旅客機内で体調が急変した。ドイツ政府はこれは「毒殺の試み」だったと断定している。
ナワリヌイ氏がロシアの病院を経て移送された病院があるベルリンでは、同氏の話題で持ちきりだ。同氏はベルリンの病院で治療のために昏睡(こんすい)状態に置かれたが、幸いにも7日、昏睡状態を脱した。ドイツの医師団は、同氏の健康への長期的な影響について判断を下すのは時期尚早であると警告する。だが、この事件がドイツの対ロシア関係に及ぼす影響はすでに明らかだ。
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2000年にロシア大統領に就任したプーチン氏とその5年後にドイツ首相に就任したメルケル氏ほど、付き合いが長い世界的指導者はあまりいない。危機にあたっては毎日連絡を取り合った。だが、プーチン氏をよく知ったことで同氏に対し、時にある種の嫌悪感を抱くことにもなった。メルケル氏は14年、ウクライナ問題で一向に約束を守らないプーチン氏に業を煮やし、欧州連合(EU)の他の加盟国に強く働きかけ、ロシアに対し経済制裁を科した。制裁が早期に解除されるとの見方や、ドイツ財界からは解除を求める声が多数上がったにもかかわらず、制裁は現在も続いている。
これ以降、ロシアからの攻撃は再三にわたり続いた。ドイツ連邦議会(下院)のコンピューターシステムが15年にロシア情報機関によるとみられる大規模なサイバー攻撃を受けたり、ロシア南部、チェチェンの独立紛争でロシア側と戦っていた人物が19年にベルリンの公園で殺害されたりするなどして、関係はさらに悪化した。
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だが、ドイツでの議論は、ロシアから天然ガスを直接ドイツに運ぶパイプライン計画「ノルドストリーム2」の行方が焦点となっている。事業費が95億ユーロ(約1兆2000億円)にのぼる開通間近のロシア北極圏ヤマル半島からのガスを運ぶ海底パイプラインだ。ロシアからドイツへのガス供給量は従来の2倍になるとみられ、さらにドイツを拠点として欧州各国へ供給される。
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同氏に近い人たちの多くも計画中止に慎重だ。CDUのローデリヒ・キーゼベッター議員は、「ノルドストリーム2だけを切り札に解決を模索しようとすると、ロシアが化学兵器禁止機関(OPCW)の条約に違反した事実から目をそらさせることになりかねない」とし、欧州全体での対応を求めている。
ベラルーシ問題の対応はもっとはっきりしている。ベラルーシでは、8月に行われた大統領選挙での不正疑惑を受けて、これに抗議する市民への暴力や抑圧が相次いでおり、最近では反体制派幹部のマリア・コレスニコワ氏が7日、拘束された。EUは、こうした選挙の不正や暴力などに関わった当局者に対し、渡航禁止や資産凍結といった制裁を科す方針を固めた。正式にはベラルーシとロシアに対する制裁は別個に議論されている。だが、メルケル氏はロシアに対する様々な選択肢を検討するにあたって、ベラルーシ情勢の悪化を念頭に置かないわけにはいかないだろう。
(9月12日号)