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【十選】描かれたアジア(9)
ジャン=フィリップ・ル・バ(カスティリオーネ原作)
「準回両部平定得勝図」より「黒水囲解」
美術史家 幸福輝
日本経済新聞 朝刊
2020/9/10 2:00
清王朝の全盛期を築いた乾隆帝は、西洋の文化や学識に深く傾倒した皇帝としても知られている。自軍の準回両部(ジュンガルとウィグル両地域)の戦勝記念として、同皇帝は本作品を含む16枚の銅版画を制作させた。
日本や中国の伝統的な版画は木版画である。緻密な描写を可能にする銅版画に魅せられた乾隆帝は、この戦闘場面を宮廷画家だったイエズス会士の画家カスティリオーネ(郎世寧)らに描かせ、下絵をパリに送った。当時、ルイ15世に仕えていたニコラ・コシャンの監修のもとに制作されたのが、この銅版画連作である。銅版画として例外的な大きさ(約57×93センチ)をもつ本連作は、東西交流史における未曽有の大企画だった。
遠くの煙るような山岳風景は伝統的な中国の山水を連想させるが、中景に展開する無数の兵士の戦闘場面は銅版画ならではの細密な描写である。臨場感溢(あふ)れる写実的描写は未知の視覚体験であり、新しい世界像の提示者として、乾隆帝の権威は大いに高まったに違いない。
司馬江漢が日本で初めて銅版画を制作するのは、この連作の約10年後のことである。(1771年、メトロポリタン美術館蔵)