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【The Economist】その服、「ウイグル製」ですか
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(7ページ)
2020/8/25 2:00
中国の新疆生産建設兵団(XPCC、通称『兵団』)ほど、英国の小説家ジョージ・オーウェルが「1984年」で描いた「監視管理体制」を地で行く複合企業は他にないだろう。
●中国政府は新疆ウイグル自治区のウイグル族に縫製などの強制労働を強いているとされる(同自治区カシュガル地区の訓練学校で縫製を学ぶウイグル族の女性たち)=ロイター
兵団は中国西部を拠点とし、300万人近い団員を抱える準軍事組織だ。設立は54年。当時イスラム教徒のウイグル族が圧倒的多数を占めた地域(55年に新疆ウイグル自治区となる)に、中国人口の9割強を占める漢民族の復員兵を大量に入植させる目的で設立された。兵団が今も抱える10万人の民兵は過激思想の取り締まりに当たるだけでなく、他の従業員と共に多くの製品を世界に供給している。綿花栽培事業では約40万人に上る農作業員が中国産綿花全体の3分の1にあたる量を収穫し、ほかにもトマトの輸出など幅広い事業を営む。パジャマからトマトピューレーまで、兵団の製品は世界中に浸透している。
米国務省は、兵団は強制労働も活用していると指摘する。ウイグル自治区ではウイグル族を含む少なくとも100万人の少数民族が強制収容されているとされ、米財務省は7月31日、兵団の幹部2人を同自治区での人権侵害に関与した疑いで制裁対象に加えた(編集注、米国人が兵団と取引することも禁じられた)。
トランプ政権は制裁に先立ち、同自治区内外でウイグル族を強制労働させる生産活動に関与しないよう企業に警告していた。カルバン・クラインやトミー・ヒルフィガーなどのブランドを抱える米アパレル大手PVHや一部の小売企業は、そうした労働慣行への関与を懸念し同自治区との関係を断つと発表した。電子機器や靴を製造する西側企業のサプライチェーンを監査する複数の組織は、ウイグル族が強制的に国内の他地域の工場に送られ、働かされている可能性を示す「警戒すべき兆候」が多くあると言う。
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まずトレーサビリティー(生産履歴の追跡)の問題から考えてみよう。ウイグル自治区は世界最大規模を誇る中国の綿花栽培や製糸、繊維産業の中心地だ。中国綿花栽培の84%を担い、ここで栽培される超長綿は需要が高い。他の品種より色が白く、なめらかな生地ができるため、ドレスシャツの素材として世界的に人気だ。また同自治区には西側ブランドと提携する国内最高級のシャツを製造する企業の紡績工場も複数ある。
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第2の大問題は地政学だ。米中対立をかいくぐってビジネスをするのは一層難しくなっている。国際的大企業は中国本土のサプライチェーンへの依存度を下げても、中国からの完全撤退は望んでいないと話す。だが中国内の消費者に商品を届けるだけが目的としても、中国の工場を維持すれば同自治区の強制労働で生産された原料を使ってしまうリスクが生じる。また中国政府がウイグル族の人権問題を海外から批判されることに強く反発しているため、西側企業は中国のサプライヤー各社に代わりに強制労働をなくすよう活動してもらうしかないが、中国企業が中国政府にそうした要求するのは難しい。
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ある企業の幹部は「まるで魔女狩りの時代のようだ。必ずしも自分たちに全責任がなくてもすぐ批判される。よき企業とみられるには極端なまでの取り組みが求められる。無罪判決を勝ち取るのは困難きわまりない」とこぼす。誰かに罪をきせるのは簡単だ。
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アパレル各社は、技術が解決策となるかもしれないと考えている。糸や生地に使われる綿花の産地、出所をDNAその他から特定するプログラムが実験的に小規模ながら始まっている。非政府組織(NGO)「責任ある調達のためのネットワーク」を立ち上げ、バイスプレジデントを務めるパトリシア・ジュレウィッツ氏によれば、アパレル各社は、米国で2010年にドッド・フランク法(金融規制改革法)が成立した際、米アップルを含むテック各社が同法に対処するため、自社のサプライチェーンにコンゴ民主共和国産の鉱物が入り込まないようにした対応策を研究しているという。
もちろんTシャツはスマートフォンより安価であり、原料をどこから調達しているかを特定するコストは割に合わない可能性がある。理想的な解決策は、中国政府がウイグル族弾圧を止めることだ。
あるビジネスマンが指摘するように、中国政府がウイグル自治区の安定を維持しようと高圧的な手段に出るほど、同地域の経済は皮肉にもますます不安定になるリスクが高まるということを忘れてはならない。
(8月22日号)