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◎インド映画『飛びたち The Flight』
監督:ハントーナ・ボルドロイ 出演:トゥリシャ・サイキア トム・アルター
8月19日(水)14:00
1996年/35ミリ/カラー/98分/インド/日本語・英語字幕付き
1940年代、インドのアッサム地方。ギリバラは家長の妻になる。家には二人の未亡人がいた。ある日アメリカ人の学者マークが村に古文書の研究にやってくる。かつてインドでは未亡人は再婚が許されなかった。本作は世代の違う未亡人たちの生き方に焦点をあてる。監督は古典的な価値観を一概には否定せず、ギリバラの自由を求める姿を短いセリフの中に繊細に描いていく。
1985年にスタートした東京国際映画祭の一部門、国際女性映画週間"映像が女性で輝くとき"は、今年第10回を迎えます。社会のあらゆる分野での女性の発言を望み、日本の女性監督の輩出を願って企画されたこのプログラムは、11月2日から7日までの6日間に、9カ国13本の世界の女性監督作品を上映いたします。そこで、9月10月の本映画紹介欄は、上記作品の中の何本かをとりあげることにしました。
●第10回国際女性映画週間参加作品
「飛び立ち」
大竹 洋子
監督・脚本 ハントーナ・ボルドロイ
出演 トゥリシャ・サイキア、トム・アルター、B・カルゴリアほか
インド(アッサム)/1996年作品/カラー/94分
フィルム提供 アジアフォーカス・福岡映画祭
毎年9月の半ばになると、福岡市でアジアフォーカス・福岡映画祭が開催される。今年で第7回を迎えたこの映画祭は、福岡市民のあいだにすっかり根づいて、人々はこの時期に近隣の国アジアの映画がまとめて見られるのを楽しみにしている。全作品を見る人も少なくない。福岡はやっぱりアジアの玄関である。
国際女性映画週間は、これまでにもアジア諸国の女性監督作品を、福岡映画祭の協力で上映してきた。今年はインドの「飛びたち」と、フィリピン映画「ミラグロス」の2本の提供を受けることができた。
これがデビュー作になる「飛びたち」の監督ハントーナ・ボルドロイさんは、開業の小児科医にして舞台女優である。さらにボルドロイさんの言葉によれば、妻であり母であり姑をもつ嫁である。そのように多忙なボルドロイさんを、映画監督の道に駈り立てたものは一体なにか。それはインドの女性に、一人の女性というよりも、一人の人間として生きてもらいたいからだという。
1944年のインド北東部アッサム地方。最高級のカースト、バラモン教の重職者である父のもとに、娘のギリが婚家先から帰ってきた。物語はここから始まる。ギリはまだ年若いのに夫に死なれ、この国が一つの身分として定めている“未亡人”になった。
未亡人にはさまざまな制約がある。白以外の衣服をまとってはならない。再婚してはならない。夫の財産はもらえない。野菜しか食べられない。夫が死んでも彼に従属している証拠として、遺品のサンダルを毎日拝まなければならない……。
ギリの両親の家にはすでに二人の未亡人がいる。一人は父の妹ドゥルガ、もう一人は父の弟の妻ゴハニである。ドゥルガは未亡人の掟を守り、運命に身をゆだねようとしている。ドゥルガより若いゴハニは、自立してここでの暮らしを定着させようとしているが、身分違いの男と関係をもっているらしい。
そしてギリ。この元気で若く美しく、未亡人になりたての女性が物語の主人公である。ギリは自身を偽らないためにいろいろなことをやってのける。お悔やみにきた人々を追い払い、古文書の調査にやってきたアメリカ人の学者マークと行動を共にし、肉を手づかみで食べてみせたりする。ギリは挑戦的であり、インド社会の“きまり”をそのまま受け入れるようなことはしない。
だが、結局は未亡人という運命から逃れないと悟ったとき、ギリは死を選ぶ。意を決したギリは故意にマークに近づいた。異教徒に触れた者は、浄めの火に焼かれるという儀式を受けなければならない。それは形式的なものなのだが、進んで小屋に入っていったギリは、そのまま焼け死んだしまった。生きる権利は死ぬ権利であることを、身をもって示したのである。
映画祭に参加したボルドロイさんに会いに、福岡へ行った。驚くほど美しいサリー姿のボルドロイさんには、知的で聡明という文字がぴったりである。40年代のインドの未亡人の状況は、50年以上をへた今、確実に変わりつつある。しかし、風習としては依然として残り、女性は自分の人生を決める裁量をもつに至っていない。自己規制ということもある。私たちには変えていかなければならないことが沢山あるのですと、ボルドロイさんは強い口調で語った。11月には東京に行くと約束してくれたボルドロイさんと映画「飛びたち」が、観客の心をゆり動かし、問題提起することを期待している。