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【Deep Insight】対中、甘くない米民主党
日本経済新聞 朝刊 オピニオン2(7ページ)
2020/8/20 2:00
バイデン氏の外交ブレーンであるブリンケン元国務副長官やサリバン元副大統領補佐官は最近、米研究所のウェブ会議やメディアで、バイデン氏の対中政策を発信している。その含意をくみ取れば、次の3つになる。
▼中国による不公正な通商慣行やサイバースパイ、海洋での強硬な振る舞いを認めない。
▼ウイグル族弾圧などの人権問題をより厳しく追及する。
▼気候変動を含めたグローバル問題では協力を求めていく。
そのうえで、これらの対中政策を米国単独ではなく、同盟国と一緒に進めると強調している。
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米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家、ボニー・グレイザー上級顧問もこう語る。
「バイデン政権が誕生したら、トランプ政権のような露骨な中国たたきのレトリックや戦術は影を潜めるだろう。だからといって、融和に後戻りすることはない。対中政策は超党派が一致している数少ない政策であり、民主党も共和党に劣らず厳しい」
もっとも、バイデン氏が特に重視する気候変動対策などで連携する代わりに、習近平(シー・ジンピン)政権が対中強硬路線の見直しを働きかけることも予想される。そこで考えられる米中のシナリオは主に3つだ。
(1)中国は安全保障や人権問題では譲らないものの、気候変動対策などの協力に応じ、米中の緊張が和らいでいく。
(2)気候変動対策などの協力は進むが、安保や人権問題が改善しないため、米中対立は弱まらず、強まる可能性もある。
(3)気候変動対策などの協力は進まず、安保や人権問題も改善しない。米中は接点がないまま、さらに対立が強まっていく。
このうち有力なのは(2)か(3)であり、(1)は考えづらい。米中の確執はサイバースパイや海洋問題、香港などの人権問題が根本原因だからである。これらの障害が取り除かれなければ、政権交代しても米中が和解に向かうのは難しい。
それどころか、バイデン氏の対中政策には対立を激化させかねない要素が少なくとも2つある。
第1に人権問題を重視するという点だ。バイデン氏側近の一人は「バイデン政権になれば、香港やウイグル族の弾圧問題を大統領が自ら取り上げ、改善を迫っていく」と予告する。
民主党のリベラル派にはことさら、人権問題を重視する向きが多い。党首脳であるペロシ下院議長は代表例だ。学生デモを中国が武力鎮圧した1989年、彼女は対中非難の急先鋒(せんぽう)に立ち、政界に名をはせた。
第2にバイデン氏が同盟国と連携し、対中政策を進めようとしていることも、中国からみればより厳しい対応である。対中包囲網が狭まり、中国が今よりも孤立するかもしれないからだ。
外交筋によると、香港やウイグル問題の対中制裁に同調するよう、トランプ氏が安倍晋三首相に直接、強く迫ったことはない。しかしこれらの人権状況が改善しなければ、バイデン氏は新たな金融・通商制裁を科すだけでなく、日欧や韓国、オーストラリアといった同盟各国にも足並みをそろえるよう求めるだろう。
こうした点を念頭に、中国共産党内では「バイデン政権」より、トランプ政権の方が望ましいとの分析も出ている。
では、日豪や欧州にとってはどうか。バイデン氏が同盟国を重視することはもちろん望ましいが、新たな試練も待っている。同盟国への期待が高い分、対中制裁などへの同調をためらえば、対米関係に亀裂が生まれる恐れがある。
実際、民主党の元政府高官からは「なぜ日本や欧州は人権問題ですぐに対中制裁に踏み切らないのか」といった不満が漏れる。
似たような構図は2014年、ロシアがウクライナのクリミアを併合した際にもあった。当時のオバマ政権はプーチン政権に厳しい制裁を科し、日欧にも追随するよう求めた。だが、ロシアとの領土交渉がヤマ場にあった安倍政権は米国ほどに重い制裁に踏み切らなかった。この問題は「オバマ時代を通じ、日米に不協和音を生んだ」(日本当局者)。
米国の強硬な対中政策にどこまでついていくのかは、中国への経済依存が深い同盟国にとって、大きな悩みだ。各国は「バイデン政権」が中国に弱腰になるかどうかを心配するよりも、こちらの難題にどう対応するのかについて真剣に検討すべきだろう。