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◎池田大作研究/佐藤優
〜世界宗教への道を追う〜32回
『一歩後退して二歩前進 大悪を大善に転換する』
検察官が圧倒的な力をもつ取調室では、勝てない。
それより、民衆の力で裁判所に公正な判断をさせよう。
保釈された池田は、この難を契機に、創価学界の世界宗教化への転換に尽力する。
「小沢(弁護士)さん、さっそく調べてみましたよ。あなたのおっしゃる大村たちが、検事と相談して作ったらという調書は、確か六月二十一日ということでしたね。ところが、それ以前の調書にも、同じ内容の供述があるんですよ」
「それはおかしい」
「………なにか七月十七日に公会堂で大会があるようですが、山本伸一は、それまでには保釈しましょう。………」
検事正は、弁護士に供述調書を見せたわけではない。法曹の間では、露見する嘘はつかないという前提でゲームが行われる。
池田大作の利益を全力で守っているつもりであったが、その視座が法律に限定されていた。検察が、供述調書で証拠を固めてしまえば、公判でこれを崩すことは難しいという法律家特有の諦めがこの弁護士にはある。だから、自白調書を作成することが公判に与える影響よりも、池田の保釈を優先したのだ。
これに対して、創価学会第2代会長の戸田城聖は、検察が事実を歪曲して事件をつくりあげたのだから、池田に無罪が言い渡される可能性が十分にあると考えた。
………戸田は、東京大会で「ようやく勝ち目が見えてきた」
弁護団が池田の無罪に悲観的であるのに対して、池田、戸田、そして創価学会員たちは楽観的見通しを持ち続けた。法的技法ではなく、信心によって、真実を明らかにすることで公判闘争に取り組むという池田らの方針が勝利につながっていったのだ。
◇◇
“検事に迎合せよ、と言って二日後には、騙された、戦闘開始だと言う。なにかとんでもない異変が起こったことは確かなようだ。しかし、いったい何が………”
「私の件で、何か状況の変化でもあったのでしょうか」
「別に、何も変わったことはない。私は、君との約束は守るつもりだから、君の方も、早く供述をすませてくれないとね」
このとき主任検事は、内心で冷や汗を流していたと思う。池田が真実を知れば、自白の供述を拒否するか、黙秘に転じる可能性があったからだ。主任検事はポーカーフェイスで通した。
☆ポーカーフェイス (Poker face) とは、感情を表に出さない無表情な様子のこと。
〈伸一は、身を乗り出すと、主任検事に言った。
「もう一度、小沢弁護士に会って話をしたいんです」
「彼は、いないよ。確か、東京に戻ったのではないか。今ごろは飛行機の中か、あるいは、もう東京に着いているかもしれんな」
しかし、この時、小沢は大阪にいたのである。主任検事は、小沢と伸一が会うことによって、伸一が供述を拒み、事態が紛糾することを恐れていたかもしれない〉
………
池田の事件の主任検事が弁護士接見を妨害したのは、検察に自信がないからだ。騙しても池田から自白調書を取ろうとしたのだ。
主任検事は池田を騙し続ける。
◇◇
「実は、小沢弁護士の話では、“すべては、ご破算になった”とのことなんですが、何かご破算になったようなことが、あったのでしょうか」
「実は、小沢弁護士は、私たちにも“ご破算だ”とか言っていたが、それがよくわからんのだよ」
◇◇
「あと一つだけ、お聞きします。私が、あなたたちの言うように供述すれば、本当に、戸田先生の逮捕や学会本部の捜索はないのですね」
「君もくどいね。約束は守ると言っているじゃないか」
◇◇
検察は、ともかく起訴に持ち込めるだけの供述を取り、早く伸一を釈放してしまおうとの方針を固めていたようである。大村昌人たちに嘘の供述をさせ、それを証拠に、山本伸一を逮捕したことが問題になるのを、恐れていたのであろう。
◇◇
「すべてのことは、御本尊様がお見通しであると、私は信ずるものであります。
………
最後は、信心しきったものが、御本尊を受持しきったものが、また、正しい仏法が、必ず勝つという信念でやっていこうではありませんか!
………」
広宣流布にむけた闘いという大きな土俵に池田は公判闘争を続けた。信心によって裁判を相対化していったのである。信心さえしっかりしていれば、難を克服することができる。鎌倉時代に日蓮は、「大悪を(起)これば大悪きたる」と述べた。日蓮の弟子として、池田は大阪事件という大悪を創価学会の世界宗教化という大善に転換していくことになる。