解説ワイド
日本防衛の課題
イージス・アショアの配備断念から考える
/静岡県立大学特任教授・小川和久氏の講演(要旨)
2020/08/12 4面
最近の議論は、敵基地攻撃能力を「持つべき」「持つ必要がない」というところから始まっている。情緒的だ。
安全保障論議は、攻めの部分、守りの部分の両方から見て「何ができ、何ができないのか」というところから入らなければならない。また、日本対北朝鮮、日本対中国のように一対一で衝突するかのような議論をしていないか。国際関係という「森」全体を見る必要がある。
その意味で、国際情勢を考える上で日本が重視すべきは何か。それは日米同盟だ。
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■(敵基地攻撃能力)「戦争の引き金」にも。排すべき情緒的議論
もし、日本が機先を制して北朝鮮の弾道ミサイル基地を先制攻撃した場合、北朝鮮が在韓米軍基地を攻撃する可能性がある。そうなると米韓両軍は反撃し、朝鮮国連軍も反撃可能になる。もう第2次朝鮮戦争だ。その引き金を日本が引いたことになる。日米同盟を前提にしなければならない日本に「戦争の引き金」を米国が持たせるだろうか。簡単にはいかないと思う。
例えば、韓国は1000発以上の短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルを北朝鮮に向けている。まさに敵基地攻撃能力そのものだ。しかし、その引き金は米韓連合軍司令官の統制の下にある。日本もそれを前提としてやるのか。
日本が弾道ミサイルを保有しても発射するには米国との調整が必要だし、そもそも中国、ロシア、韓国、台湾が保有を簡単に認めるだろうか。
敵基地攻撃能力については議論を整理しなければならない。とにかく日本には相手の弾道ミサイルがどこにあるのかを突き止める情報収集能力もないし、目標を特定して攻撃部隊に伝える特殊部隊の能力もほとんどない。
敵基地攻撃能力についてはさまざまな手段があるが、「何ができ、何ができないのか」を踏まえなければ、情緒的な議論に終わってしまう。