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【Deep Insight】南シナ海、米最前線の綻び
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(8ページ)
2020/8/8 2:00
さざ波が立つどころではない。南シナ海のほぼ全域に自らの主権が及ぶとする中国の言い分を、米国が「完全に不法」と断じた。米中両軍は同じ海域で軍事演習の実施を競い、緊張が高まっている。
米国が根拠に挙げたのは、2016年のオランダ・ハーグの仲裁裁判所の判決である。中国は紙くず呼ばわりし、独善的な海洋進出を加速させた。手を焼くベトナムやマレーシアなどは米国の介入を歓迎するが、訴訟の原告だったはずのフィリピンはもろ手を挙げては歓迎していないようだ。
「中国は南シナ海をすでに領有している。我々に何ができるのか。戦争をする余裕などない」
7月27日、就任5年目の施政方針演説で、ドゥテルテ大統領は中国との対決を避けると述べた。
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、ドゥテルテ政権は対応に苦慮している。ただしコロナ禍がなければ、南シナ海問題は今ごろもっと大騒ぎになっていたに違いない。フィリピン国内に事実上駐留している米兵の法的地位を定めた「訪問軍地位協定(VFA)」が8月9日で失効するはずだったからだ。
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1946年のフィリピン独立後も米軍は駐留を続け、東南アジアにおける軍事活動の拠点とした。東西冷戦が終わると、比上院が基地存続を拒み、92年に米軍は全面撤退した。3年後、中国が突如としてフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある南シナ海のミスチーフ礁を占拠する。その反省から98年に結んだのがVFAだ。
米軍に事実上の再駐留を認めたものの、2012年にはスカボロー礁の占拠を許してしまう。「米国だけが中国を止められたのに、しなかった。だから嫌いだ」。ドゥテルテ氏はこう非難し、経済支援も目当てに中国へ近づいた。
いまの米比関係は米朝関係に似ている。国家同士の関係は冷え込んでいても、首脳間は悪くない。4月19日、ドゥテルテ氏はトランプ米大統領とコロナ対応について電話協議すると、ほどなく米側からデラロサ氏へビザ発給を認めるとの通知が届いた。予測不能で似た者同士の両首脳の間で、VFA問題についても何らかの議論があった可能性が高い。
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破棄通告は保留であり、撤回したわけではない。米比同盟の行方を左右するのは、11月の米大統領選だ。世論調査で優勢な民主党候補のバイデン氏は、ドゥテルテ氏の強権ぶりを手厳しく批判し、犬猿の仲だったオバマ前政権の副大統領である。バイデン氏が勝てば、再び人権重視のアジア外交に回帰する可能性は高い。その時、中ぶらりんのVFAは、ドゥテルテ氏が米国の干渉をかわすための有力なカードになり得る。ただし、それを使えば危険なゲームになる。
米国が本腰を入れて中国と対峙するさなか、最前線のフィリピンが空白地帯になれば何が起きるのか。米ランド研究所のキャロライン・バクスター上級政策アナリストは「南シナ海での有事の際、米軍は遠く離れた日韓豪やグアムの基地から対応せざるを得ず、作戦に制約が生じる」と指摘する。
そこまでいかなくとも、アジアで最も古い同盟のすきま風は、対中包囲網に綻びを生む。フィリピンが中国に近づくことより、米国を遠ざけることの方が米国のアジア戦略の大きな不安材料なのだ。
☆フィリピンの大統領はおかしいね??信頼できない。