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【あすへの話題】タテとヨコ 美術家 森村泰昌
日本経済新聞 夕刊 1面(1ページ)
2020/8/7 15:30
タテ社会とヨコ社会という常套句(じょうとうく)がある。先輩と後輩、上司と部下、親と子といった上下関係重視のタテ社会。ジャンルを横断する水平方向のコミュニケーションに価値を置くヨコ社会。どちらがいいのか私にはわからないが、その価値判断以上に興味深いのは、世の中に多様に見受けられる、タテとヨコのまた別の諸相のほうである。
例えば日本語や中国語は、基本タテ書きだが、これに対しアルファベットやアラビア文字はヨコ書きである。
日本の掛け軸は、多くがタテ位置である。ところが、テレビ受像機は基本ヨコ長で、ある時期からその比率が16:9と、さらにヨコ長になった。だからTVの美術番組で掛け軸の全体像を見せる場合には、左右に無駄なスペースがいっぱいできる。その見づらさにストレスを感じながら、ヨコ優先の時代だなあと感じたりもしていた。
近年、またその事情が変わってきた。パソコン画面は相変わらずヨコ位置なのだが、普及著しいスマホの画面はどうか。もちろんヨコにも使えるが、一般的にはタテ使いであろう。そして今年にはいり、次のようなケースも現れてきた。
TVニュースのコメンテーターが新型コロナウィルスの影響でスタジオ入りできないばあい、いわゆるリモート出演するのだが、この時出演者はタテ長のモニター画面に納まって出演することがある。視聴者は、タテ位置モニターに映し出されたリモートの出演者を、自宅のヨコ長画面のTVモニターで見るわけである。
21世紀は、タテ社会とヨコ社会が入り乱れた複雑系の時代なのかもしれない。