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【核心】大借金時代の先には
論説委員長 藤井彰夫
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(6ページ)
2020/8/3 2:00
「今年の世界の公的債務は第2次大戦時を抜いて過去最大になる」。7月上旬、国際通貨基金(IMF)首席エコノミストのギータ・ゴピナート氏は東京大学と共催のウェブ会議でこう警告した。
IMFの見通しでは2020年の先進国の公的債務残高は国内総生産(GDP)の128%でこれまでのピークの1946年を超す。コロナ禍にあたって各国は巨額の財政支出を迫られた。日本も66兆円の国債を増発したようにその多くを借金で賄っている。
民間も含む世界の借金残高(国際金融協会調べ)は1〜3月期で過去最大の258兆ドル。円換算で2.7京円、実に世界のGDPの3倍超だ。
世界は未曽有の「大借金時代」に入った。それは巨大な借り手となった国家の信用をめぐる競争の時代でもある。
この競争で最も弱いのは、海外の資金に頼る途上国だ。借金返済に行き詰まる国も出始め、7月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、返済を年末まで猶予する救済措置で合意した。
つぎに弱いのは先進国でも経常赤字で財政状況も悪い、イタリアやスペインなど南欧諸国。ギリシャが債務不履行を起こした2010年代前半の欧州債務危機の再燃か、と投資家は身構えた。
だが、欧州には学習効果があった。前の危機で、南欧と対立した財政規律重視のドイツが変身したのだ。メルケル首相が調整役となり、7500億ユーロの欧州復興基金を編み出した。資金調達は共同債。欧州が一丸となり「皆で借りれば怖くない」方式だ。
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「自国通貨建てで国債を発行できる国は財政赤字を心配せずに歳出を拡大できる」。1年ほど前、世界で論争が起きたMMT(現代貨幣理論)。主唱者の一人の米学者ステファニー・ケルトン氏は、昨年の来日時に「日本では財政赤字が自動的な金利上昇につながらず量的緩和も機能している」と述べ、すでにMMTを実践していると指摘した。当時、中央銀行や主流派学者は猛反発したが、コロナ禍を前に、今や先進国の多くが日本の後を追っている。
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借金先進国の日本はどうなるのか。
「愛があるうちは大丈夫」。岡三証券の高田創氏はこう指摘する。日本を1つの家庭に見立てると、政府が国民からお金を借りて成り立っている。それを支えるのは「愛」、つまり国民の国家への信頼だ。言いかえれば、経常黒字を保ち将来は増税などで借金を返せるという信頼感だ。それが崩れたときに国民は国家を見放す。そして急激な資本流出による円安、ハイパー・インフレ、金利上昇が起き、財政は破綻する。
この危機シナリオは長年、財政健全化論者が唱えてきたが実際は何も起こらない。財政を預かる麻生太郎・財務相も最近「オオカミ少年だったかもしれない」と漏らした。
こうした空気を反映してか、最近の財政支出には規律が働かなくなってきている。コロナ禍の非常時に必要な対策をとるのは当然だが、効率的とはいえない使い方が目立つ。アベノマスク、10万円の特別給付金――。迅速に支給するため全世帯を対象にしたと政府は説明したが、給付は大幅に遅れた。本当に困った人々に対象をしぼることができなかったのだろうか。
歳出急拡大で「ワニの口」といわれる日本政府の歳出・税収のグラフは上アゴが外れたような形になってしまった。
国家の信認の崩壊は、何がきっかけになるかはわからない。大災害なのか、地政学リスクの顕在化なのか。「オオカミ少年」がいなくなり、皆が「もっと借りても大丈夫」と言い出したときが危ないのかもしれない。