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◎「バイデン完勝」起きるか
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(8ページ)
2020/8/1 2:00
大半の世論調査を見事に覆した2016年の当選劇は記憶になお新しい。分断と怒りを推進力にするトランプ氏はいつか巻き返す。誰もがその可能性を排除しないのは無理もない。だが、足元では「バイデン完勝」のシナリオすら、じわじわと現実味を帯びている。
大統領選は議会選挙と同時実施だ。18年の中間選挙で民主は40議席以上伸ばし下院の過半数を取り返した。約3分の1の35議席を改選する上院でも3議席を積み増せば50対50で共和党に並ぶ。バイデン氏が勝てば上院が賛否同数でも副大統領が最後の1票を投じられ法案や人事を通しやすくなる。米国で大統領と両院を同一政党が支配する「完勝」はそう多くない。
「Build Back Better(より良い状況への再建)」を掲げたバイデン氏。雇用確保、製造業の復権、中国に対する強硬姿勢といった一連の政策構想には、「米国第一」トランプ氏のお株を奪う巧みさがうかがえる。
4年間で4000億ドル(約42兆円)を投じ、米企業から巨額の政府調達をする「バイアメリカン」構想は、16年の選挙でトランプ陣営の最高責任者だったスティーブン・バノン氏をして「脱帽だ」と言わしめた。
トランプ氏もバイデン氏の政策を「盗作」と批判するが、異なる部分も数多い。トランプ氏が21%に下げた法人税の税率をバイデン氏は28%まで戻す方針だ。化石燃料を温存する規制緩和で石油産業の支持を得るトランプ流は、地球温暖化の防止に動き巨額のグリーン投資を促すバイデン構想と正反対といえる。
法人税を重くし、環境規制を厳しくする民主党の政策は金融市場から嫌われてきたが、やや風向きは変わりつつある。バイデン氏が大統領と議会両院を押さえれば、コロナの封じ込めを効果的に進め対中関税も元に戻して米経済の回復期待を高めるというものだ。「サプライズの株高」が起きるかもしれないとバンク・オブ・アメリカは顧客向けリポートで指摘した。むろん金融界や情報技術(IT)業界は市場や企業への締め付けの強化に警戒をとがらせる。
バイデン氏も中国に対する強硬姿勢を掲げるが、トランプ政権の単独主義から欧州や日本、アジア諸国との協調を重視した別次元の厳しさに変わるだろう。
副大統領と国家副主席という立場でバイデン氏は11年8月に足かけ6日間の訪中日程を習近平(シー・ジンピン)現国家主席とともにした。だが9年間で中国の強権と米国の反中感情はともに飛躍的に高まっている。トランプ氏が無関心だった「人権」を突く姿勢も強まり、米中の緊張関係はバイデン氏でもそう変化はないだろう。
日本とはどう向き合うのか。
「ジョーとは日本について何度も話した。アジアでは日本が最も重要な同盟国であると彼は強く信じている」。ダシュル元上院議員はそう話す。バイデン氏は副大統領時代、安倍晋三首相からの依頼で、朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領との従軍慰安婦問題を巡る日韓合意の地ならしをしたと吐露した。同盟国と「大人の外交」を進めるなかでの日本の位置づけは重いだろう。だが米国の製造業を守る姿勢から、環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰には、まだまだハードルが高そうだ。
誰も経験したことのないコロナ時代の「熱狂なき選挙」。盤石にみえるバイデン氏だが、来週決める副大統領候補の人選や9月に始まるトランプ大統領とのテレビ討論会で弱みをさらす可能性も大いにある。学校の早期再開やワクチン開発を強引に進めるトランプ氏の賭けが当たるかもしれない。
敵失に乗じたバイデン氏の圧勝か、終盤の猛烈な追い上げで大接戦をトランプ氏が制するか。荒っぽい予想だが、大統領選はこのどちらかに転ぶのではないか。