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2020.7.30-4

2020年07月29日 (水) 22:18
2020.7.30-

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【中外時評】現代のグレート・ゲーム
客員論説委員 土屋大洋
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(6ページ)

 英国人で初めてノーベル文学賞を受賞したラドヤード・キプリングの小説「少年キム」は、当時のインドの生活を生き生きと描き出した。

 この小説が出版されたのは1901年。日露戦争の直前だった。舞台の背景にあるのは、不凍港を求めるロシアの南下政策である。英国が支配していたインドにロシアは関心を示す。それを阻止するべく英国の情報機関が動き、特異な才能を持つ英国人孤児のキムが巻き込まれていく。

 この小説が一つのきっかけとなり、ロシアとインドの間にある中央アジアをめぐる覇権争いを「グレート・ゲーム」と呼ぶようになった。中央アジアの各地に入り込み、測量して地図を作ったり、情勢を調べたりするよう少年キムは育てられていく。

 このグレート・ゲームという考え方は英米の情報機関で働く人たちの頭に刷り込まれている。実際、冷戦の最中、1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻することでロシアの南下政策は現実のものになった。第2次世界大戦後、英国に代わってソ連に対抗することになった米国はその阻止に動いた。

新型コロナウイルスへの対応に各国が追われている間、金融制度は揺らいでいる。通常とは異なる規模の財政出動が各国で行われ、資金の流れも通常とは異なる。商売の継続に苦しむ人々が多くなる一方で、富裕層はますます資産を蓄えているといわれる。

 そうした資産の偏りは人々の不満を増加させ、サイバー攻撃に加担する人を増やす可能性がある。詐欺メールが増加し、ワクチンをめぐる技術のような「金づる」を狙う動きも活発化している。どさくさに紛れた国家間の資産強奪も企図されているだろう。

 世界第3位の経済大国・日本もまた、現代のグレート・ゲームで狙われる側だ。東京五輪の延期に伴い、サイバーセキュリティー関係者には疲れがみられる。この油断を突かれないようにしたい。



 慶応大教授。月1回掲載します。


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