???????????????????????
【The Economist】さまよえるティックトック
「ティックトック」の成功で中国のバイトダンスは未上場スタートアップとしては評価額世界一を誇るが…=ロイター
世界で最も価値あるスタートアップ、中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)の評価額がセカンダリー(流通市場)で5月、春の資金調達時の1.5倍に近い1400億ドル(約15兆円)に達し、他のIT系「ユニコーン」(企業価値10億ドル以上の未上場企業)をさらに引き離した。理由は同社が運営する短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」だ。
総ダウンロード数は20億回に達し、利用者が投稿する楽しいコンテンツのおかげでネット上の「最後の明るい場所」とされ、中国発アプリとしては初めて世界を席巻した。創業者の張一鳴氏(37)が、バイトダンスを世界的なソフトウエア企業に育てるとする野望に欠かせない商品だ。
だがその野望が今、危機にある。インド政府は6月29日、ヒマラヤ山中の中印国境係争地帯で両国兵士が衝突し死者が出たことから、ティックトックを含む59の中国製アプリの使用を禁じた。バイトダンスは同月、トランプ米政権がティックトックが中国企業のアプリである点を懸念していると米国の担当弁護士から報告された。米政権は同アプリを全面的に利用禁止にする可能性をちらつかせている。
米政権のティックトックへの懸念は、その人気上昇に伴い膨らんだ。米国の利用者数は約7000万人とされ、動画・写真共有の米アプリ「スナップチャット」に並ぶ。
◇◇
ティックトック利用者にすれば、米政府がハリネズミの赤ちゃんを撮影した無邪気な動画を弾圧しようとするのはばかげた話だ。だが米政権には懸念が2つある。
一つは中国政府の検閲対象になるリスクと政治的宣伝に利用されるリスクだ。ティックトックは過去にチベット問題や天安門事件、新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧など中国政府が神経をとがらす問題に関する投稿を削除したことがある。2つ目は、バイトダンスが中国企業である以上、中国当局への協力を法的に強制される点だ。
ティックトックは中国政府にデータ提出を正式に要請されたことはなく、要請されても中国人以外の利用者情報の提供を拒否するとしている。だが米フェイスブックの元最高セキュリティー責任者で今はビデオ会議サービス「Zoom」を手掛ける米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの顧問アレックス・スタモス氏は、ティックトックが中国政府の要請に抵抗しても「そのデータを出させるための超法規的手段が存在する点が問題だ」と指摘する。同氏によると、北京のバイトダンスに勤めるエンジニアが海外にあるティックトックのサーバーにアクセスできる場合、中国政府はそのサーバーに保存されているデータの提出を強制できる可能性がある。
◇◇
だが米政権によるティックトック利用禁止の可能性が高まり、同計画は中断している。バイトダンスの最優先事項は、利用禁止を回避する一方、ティックトックの経済的価値を保有し続けることだ。
同社が望むのは会社の二分化だ。そのために資本構造を変え、グローバル部門を分離する覚悟も決めている。グローバル部門の株式所有を35〜49%に減らし、張氏が選任する取締役も半数未満にする。さらにバイトダンスグローバルからティックトックの米国部門を分離し、中国ともっと距離を持たせる。また、バイトダンスの既存の出資者がティックトックの株式の過半を買い取る案も報道されている。この場合、バイトダンスに若干の株式保有を認める可能性はある。だが、これらの対策で米政権が納得するかは不明だ。
バイトダンスが恐れる展開は、ティックトックのグローバル部門の90〜100%を米国の投資家やIT大手に売却するよう余儀なくされることだ。米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は16日、ティックトックは中国の親会社から独立した米企業になるとの見方を示した。欧州にグローバル部門の本社を置く案を中国政府は受け入れるとバイトダンスはみている。だがティックトックのグローバル部門が米国の投資家や企業の手に渡れば、米政権が強制収用した印象を生むし、中国で本件に関与するある人物は「それは米国が世界的プラットフォームをまた一つ手にすることを意味する」と言う。
◇◇
ティックトックの苦境は他社に躍進する余地を生んだ。インドでは2億人が一夜にしてティックトックへのアクセスを失ったが、地元の競合する動画共有アプリ「ロポソ」は48時間で2200万件の新規利用者を得た。米国ではフェイスブックが近く傘下の写真動画共有アプリ「インスタグラム」にティックトックと似た短編動画加工機能「リールズ」を加え、ユーチューブも同様の機能を持つ「ショーツ」を投入予定だ。
米政権は多くの米国民が夢中になっている中国アプリの利用禁止を考え直すかもしれない。ティックトックの企業構造も変わるかもしれない。だがパパス氏は「ティックトックが消えることはない」と断言する。
(7月25日号)