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【経済教室】コロナ禍での日銀の役割
安全網支援へ資金供給も
西村清彦・政策研究大学院大学特別教授
にしむら・きよひこ 53年生まれ。エール大博士。
専門は理論経済学。東京大名誉教授。元日銀副総裁
日本経済は、従来の金融危機とは異なる大きな危機の中にある。従来の金融危機では、経済の基本的な需要・供給構造に変化はないが、それをつなぐ金融仲介に相互不信が生まれた。疑心暗鬼が対処の失敗・遅れから世界に拡大し、銀行・大企業を核とする金融市場の機能不全をもたらし、社会的弱者・弱小企業に波及した。失われた信用回復には時間がかかったものの、基本構造に変化がなかったため回復が軌道に乗ると回復スピードは速かった。
今回の危機は「見えない不安がもたらす危機」だ。見えない感染症におびえる中で、経済の基本的な需要・供給構造の双方が同時に大きく毀損した。特に需要構造の毀損は広範で、直接に社会的弱者・弱小企業・弱小組織に打撃を与えた。
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コロナ禍の経済的影響が長期化・深刻化し、逃げ場のない不安が積み重なるリスクへの対処を考える時、2つの金融問題が存在する。
第1に銀行・大企業の経済活動を支える金融市場をどう守るかだ。これには金融危機の教訓から十分な対処がなされている。日銀は銀行・大企業の資金繰りの急速な悪化には、銀行間市場や社債市場などを通じ流動性を直接潤沢に供給し、また金融市場が崩壊しないように資産を買い取る。
だがコロナ禍の下で第2の問題、金融安全網(セーフティーネット)問題が生じた。突然かつ広範に生じた社会的弱者、弱小企業、弱小NPO・NGOの生活資金・運転資金・投資資金などの需要を守り負の連鎖反応が起きないように、金融を通じ経済活動をどう回していくかということだ。
安全網は、中央・地方政府が財政の問題として対処しており、多様な給付金、政府系金融機関を通じた融資(利子補給)などがある。日銀は貸出支援基金を通じた金融機関への貸し出しで間接的に対処している。
コロナ禍対応では財政支出の現場で3つの「遅れ」が生じた。第1に安全網対象の家計、企業、組織の定義が曖昧かつ限定的なうえ地域差もあるため、判断に時間がかかる「地域現場の遅れ」だ。第2にどこで誰が困っているかわからないという「安全網の網掛けの遅れ」だ。第3に安全網に本来組み入れるべきNPO・NGOは現在も対象外という「安全網拡大の遅れ」だ。だが現在遅れは解消しつつあり、特に政府系金融機関の動きがめざましい。
現場の急速な対応が進むが、そもそも司令塔であるべき政府中枢での「デジタルシステム化の遅れ」が現場の遅れの背後にある。
<ポイント>
○低インフレと成長率低下が常態化の懸念
○金融機関が財政支出執行までつなぎ融資
○日銀は安全網対象想定者の口座情報把握