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【Deep Insight】米中、「政治戦争」始まる
米中関係の悪化が止まらない。あつれきは通商やハイテクにとどまらず、軍事の緊張を帯びるまでになっている。
ポンペオ米国務長官は7月13日、南シナ海のほぼ全域の権益を主張する中国の立場について、米国として初めて全面否定する声明を発表した。
さらに米国は今月、2度にわたって2隻の空母を南シナ海に送り、大がかりな演習にも踏み切った。中国軍も活動を広げており、海域はきな臭さを増している。
ただ、こうした目に見える対立より、もっと注意すべき本質的な変化が米中関係には起きている。米政府や議会で、中国の共産党性悪論ともいうべき対中観が急速に広がり始めていることだ。
この対中観をひと言でいえば、中国が人権や国際ルールに反するような言動を続けるのは、共産党の独裁体制に元凶があるというものだ。
何の変哲もないように響くが、極めて厳しい対中観である。中国に言動を改めさせるには対話や圧力では足りず、共産党体制そのものを変える必要があるという結論に行き着きかねないからだ。
第1弾が、6月24日のオブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)だ。「習近平(シー・ジンピン)党総書記は自分がスターリンの後継者だと思っている」と演説。数百万人の政敵を粛清したとされる旧ソ連の独裁者、スターリンと習氏を同列に並べた。
7月にはレイ米連邦捜査局(FBI)長官、バー司法長官らも演説し、共産党を手荒く批判した。趣旨は次のようなものだ。
中国共産党の目標は民主主義国の基盤を壊すことにある。そのために米国内でのスパイや脅迫、政治宣伝をやりたい放題であり、米国民に重大な脅威だ――。
だが、共産党性悪論が米国の対中政策の前提になれば、もはや手打ちは難しい。人間関係でいえば、前者はカネや権益の争い、後者は相手の性質や人格を否定する戦いだからである。
米報道によると、米政府はいま、9千万人超のすべての中国共産党員とその家族による入国を禁じることも検討しているという。
米国の対中不信が深まったのはサイバーや海洋をめぐる中国の強硬な行動に原因があるが、決定的だったのはコロナ危機だ。米国では新型コロナウイルスによる死者が14万人を超えた。
中国共産党が報道や言論の自由を認めないから、新型ウイルスの発生を現場などが隠ぺいし、感染が世界に拡散した……。
米社会にはこんな感情が漂い、共産党への不信が沈殿している。自分の失策を覆うため、トランプ大統領が中国責任論を唱えていることも、反中感情に油を注ぐ。
では、米中が立ち止まり、融和に動く余地はないのか。6月17日、ポンペオ国務長官と中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員がハワイで会談した。この内幕を探ると、悲観的にならざるを得ない。
米側によると開催を求めたのは中国だった。トランプ大統領が重視する第1弾の米中貿易合意を「人質」にとれば香港や南シナ海、人権、台湾問題で米国の姿勢を軟化させられる。楊氏は当初、そう踏んでいた様子だったという。
これに対し、ポンペオ長官は一切、強硬な態度を崩さず、会談は決裂した。米政府はこれを受け、チベット族、ウイグル族への弾圧や香港の自治侵害に対し、矢継ぎ早に制裁を発動した。
米大統領選で民主党のバイデン氏が勝っても、この流れは変わるとは思えない。「対中強硬は完全に超党派の路線であり、民主党も強く支持している」(米政府当局者)。バイデン氏の外交・安保ブレーンらも最近、米シンクタンクのウェブ会議に相次いで登場し、同盟国と協力して対中圧力を強める構想を示した。
米国が共産党体制を敵視し、中国とぶつかったことは前もあった。中国が抗議デモを武力で鎮圧した1989年の天安門事件だ。
それでも中国が急成長を遂げるにつれ、米中は経済を磁力に近づき、10年足らずのうちに互いを戦略的パートナーと呼ぶほどまでの蜜月関係になった。
同じような修復のバネは、もう働かないだろう。約30年前とは異なり、中国は経済、軍事ともに米国の覇権を脅かす大国になったからだ。両巨象は長い対立のトンネルに足を踏み入れた。