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【NAR Exclusive】
中国ラッキンコーヒー、米ナスダック上場廃止
不正会計 「帝国」に危機
ウォーバーグの判断は正しかった。ラッキンは20年4月、19年12月期の売上高の約22億元(約330億円)分について不正があったと認めた。売上高の水増しなど取引の改ざんがあったとしている。
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ラッキンは単なるスターバックスの廉価版ではない。(スマートフォンなどの)アプリで注文・決済し、宅配か店頭で受け取るか選べるサービスを導入しているため、中国の巨大な消費者データベースの構築も可能だ。
ラッキンが上場した19年5月17日の同社株の終値で計算した時価総額は約56億ドル(約6千億円)だった。市場には中国のネット通販のアリババ集団やネットサービスの騰訊控股(テンセント)のような有望企業を探していた投資家が押し寄せた。米ブラックロックやシンガポールの政府系投資会社GICといった複数の機関投資家が、直接またはリー氏の投資会社などを通して投資した。
だが、ラッキンのビジネスモデルを懐疑的に見る向きもあった。収益性を考えればコーヒーの価格が低すぎるほか、目論見書に多くの店舗が必要な許可を取っていないことがリスクとして挙げられていた。
同社の新規株式公開(IPO)で主幹事の1社を務めた投資銀行のある担当者は、デューデリジェンス(資産査定)でも「警戒信号」が出ていたと明かす。同社が販売したとするコーヒーの数と、在庫のコーヒーカップが減った数が一致していなかったという。
なぜラッキンは上場をそこまで急いだのか。ある投資家は「資金繰りが苦しい企業は市場を利用して急いで資金調達する」とみる。
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ラッキンの店舗と周辺に1500人近い調査員を派遣し、客の出入りを監視カメラなどで撮影して記録。1万1千時間超の映像と2万6千枚に上るレシートを集め、売上高の水増しなどの可能性を調べた。ラッキンは当初、リポートの内容を否定していたが、不正があったと4月に認めた。
過去10年、ニューヨークやシンガポールなど海外の証券取引所に上場する中国企業の不祥事もあった。だが、今回のラッキンの問題はこれまでとは比較にならないほど影響力が大きい。理由のひとつは米中対立の激化だ。両国の戦いの舞台が貿易から金融へと広がる中で、米国は対中攻勢をさらに強める可能性がある。
米連邦議会上院は5月、米国基準での監査に3期連続で応じなかった企業が上場廃止となる法案を承認した。中国は企業の監査資料を国外へ持ち出すことを禁じており、海外の規制当局は内容を確認できない。
中国側の規制当局もラッキンの不正を強く批判し、全容解明のために調査に乗り出している。上海で6月に開かれた陸家嘴フォーラムで中国人民銀行(中央銀行)の前総裁、周小川氏が「中国政府と起業家は中国企業の企業統治が外国で受け入れられるようにする必要がある」と述べた。
ラッキンの売上高の水増しが発覚し、消費者向けにサービスを提供している中国のネット企業に投資する上での課題も露呈した。企業が提示してきた日次や月次の(売上高や販売量などの)数字の裏を取るのは難しい。商品の販売価格を抑えるために自社の利益をどのぐらい犠牲にしているかを把握するのも困難だ。
陸氏のラッキン帝国はいま、危機にひんしている。同氏は取締役ではなくなったが、敗者とみなすのは間違っているかもしれない。同氏の元側近らは「陸氏は百戦錬磨のけんか上手だから」と口をそろえる。
(Nikkei Asian Reviewコラムニスト ヘニー・センダー)