【十選】音楽を創った絵画(2)
ヴァトー「シテール島への巡礼」
音楽プロデューサー 松田亜有子
ついに出会った人――。作曲家ドビュッシーにとって、それは銀行家バルダック夫人で、かつ教え子の母親であるエンマだった。
惹(ひ)かれ合う二人は思いを断ち切れず、イギリス海峡にあるジャージー島へ……。まるでドラマのような展開だが、逃避行の最中、ヴァトーの絵画「シテール島への巡礼」からインスピレーションを受けたピアノ曲「喜びの島」が完成する。
抑えきれない胸の高まり、魂が感動で震えているようなトリルから始まる冒頭。絵に描かれている恋人たちの仕草(しぐさ)、表情だけでなく、島へ向かう二人の会話、光輝く波、空の様子が、リズミカルな音楽として表出されている。
そして最後は、高音から一気に下降し、低音で一音の強い音で終わる。ふっと現実に戻るような印象を与える幕切れであるが、現実世界においても、帰宅したドビュッシーを待ち受けていたのは、妻ロザリーがピストル自殺をはかったという事実だった。
スキャンダラスな出来事によって、社会から見放されたドビュッシー。しかし、二人の「喜びの島」は非難、嘲笑を乗り越え、結婚という形で結実する。そして、その後も創作を続けたドビュッシーの楽曲は、いまも私たちを歓喜に導き、夢見心地にさせている。(1717年、油彩、カンバス、129×194センチ、ルーヴル美術館蔵)
☆ドビュッシー 「喜びの島」 ダウンロード??
マウリツィオ・ポリーニ
5:41 | 13.6 MB 2015/11/17 配信
AAC 128/320kbps