◎【大機小機】在宅時代、学び直しの好機
「時代の要求するところのものを自己の要求とし、時代の作為せんとすることを自己の作為とし、求むるとも求めらるるとも無く自然に時代の意気と希望とを自己の意気と希望として、長い歳月を克く勤め克く労した」。
満91歳で没後、幸田露伴に評された渋沢栄一は、「試みに一人の学生が30歳まで学問のために時を費やすならば、少なくとも70歳ぐらいまでは働かねばならぬ」(「論語と算盤」から)と語っていた。
180年前、今年と同じ閏(うるう)年生まれの、一先人の話である。
長く働けるようにするためには、どうしたらいいか。日本経済研究センターのリポート「長寿どこまで 2060年 雇用の未来図」(18年12月)は、
(1)高齢者は負担でもあり、資産(戦力)でもある
(2)健康なサラリーマンが引退するのはおかしい、定年延長で高齢者を戦力に
(3)鍵は専門性の蓄積〜専門性を身につければ序列に縛られにくいし、仕事の満足度も高い
(4)高齢期に向けたキャリア選択のために、30代、40代から選択肢を増やす準備を
――などと提言している。
新型コロナウイルスが一向におさまらず、蟄居(ちっきょ)の日々が続きがちだが、ITの時代、オンラインで、人に会わなくても学べる。ITの苦手な人には、書物がある。非接触の日常は、在宅学習の好機でもある。農業、幕臣、官僚を経て、33歳で実業家に転じた渋沢の言にあるように、
「真に自分の素質にも協(かな)い、才能にも応じた立志」
(同)は、年齢の如何(いかん)を問わない。自己革新による、もうひとつの自分の発見と創造は、長寿の時代を、多軸で生き抜く力を与えてくれるだろう。