◎春秋(日経)
古代ギリシャの盟主アテナイはスパルタとの開戦翌年の紀元前430年、疫病に見舞われた。歴史家トゥキュディデスは「戦史」のなかで、そのときの病状の経過について書いている。患者の観察に加え、自分がかかった経験ももとにした描写というだけあって克明だ。
▼突然、頭部が発熱し目は充血。続いて咽頭が痛み声はしわがれ、苦痛は胸部へ。皮膚は赤みを帯びた鉛色を呈し、体が熱く裸になるほかない……。詳しく記したのは今後の備えに役立ててもらうためだ。「またいつなんどき病魔が襲っても、症状の経過さえよく知っていれば誤診をふせぐよすがにもなろう」(久保正彰訳)