◎何のためのマイナンバー(上)
つぎはぎ行政、利便性置き去り
オンライン申請「中身は手入力」
戦略練り直しのとき
「確認に追われ、職員の5月の残業時間は200時間を超えた」。5月下旬、東京都八王子市の職員は疲れきっていた。同じ人が何度も申請してきたり、他市の住民が申請したり。同市は10万円給付のオンライン申請の受け付けを停止した。
置き去りとなったのは利便性だ。法律上、マイナンバーの活用は生活保護申請などに限られ、情報を規定外の用途で結びつけられない。行政が支援対象者を割り出し、要望を待たずに手を差し伸べる英米流の「プッシュ型支援」に使えない。
日本では民主党政権時代に構想が本格化した。情報漏洩や政府による一元管理への懸念から「セキュリティーを強く担保しながら利用目的を拡大する高い目標を課された」(NTTデータ経営研究所の河本敏夫氏)。
政府はマイナンバー制度にこれまで6400億円の予算を投じた。重要なのは利便性そのものを高めることだ。例えば緊急時の給付金事務の位置づけを法的に明確にすることも必要だろう。
◎【迫真】終わりなきプーチン体制(1)
「運命の皇帝」命ある限り
転機となったのは3月10日の下院本会議。壇上に世界初の女性宇宙飛行士、与党議員ワレンチナ・テレシコワが呼ばれ、紙を読み上げた。「国民が望むなら、現職大統領が再び出馬できるよう憲法に書き込むべきだ」。議場は拍手に包まれた。
兆しはあった。年次教書以降、政財界や支持者に動揺が広がった。プーチンが改憲を「政治的遺言状」として退任すると不安視され、抑えが効かなくなりつつあった。
政権発足から20年、あらゆる決定権を自らの手に集中させてきた。下院議長いわく「プーチンなきロシアはない」。プーチンの本音はどうあれ、「権力の呪縛」から簡単には逃れられない。
2月22日にモスクワ郊外で開かれた民族派団体「双頭のワシ」の総会では、あごひげを蓄えた会長コンスタンチン・マロフェーエフが熱弁を振るった。改憲案は「(帝政ロシアの)立憲君主制への正しい方向だ」。
「皇帝プーチン」の退位を望まない人々は、支配層に多い。武力機関や政府幹部、政権に近い新興財閥、与党議員……。地位と富、利権を維持するにはまつり上げる「皇帝」が欠かせない。
3月上旬、大統領とは「運命だ」と心境の変化を示唆したプーチン。今年10月に満68歳を迎え、ロシア人男性の平均寿命に達する。新型コロナのリスクを避けて公邸にこもる姿には老いの影も忍び寄るが、命ある限り「運命」には逆らえないのだろうか。