◎日経・春秋
ロン・コビックさんは1946年7月4日に米国で生まれた。
ケネディ大統領の有名な就任演説、
「国のために何をなし得るかを問うてほしい」
に愛国心を喚起され、高校卒業後に海兵隊へ。だが、ベトナムで地獄を見た。戦友を誤射し、自身は下半身まひの傷を負う。
▼オリバー・ストーン監督の映画「7月4日に生まれて」の原作者である。胸に迫るのは1972年、再選を目指すニクソン大統領の演説会場に車椅子で乗り込む場面だ。「ベトナムで起きていることは、人類に対する犯罪」と叫ぶ。大統領の支持者は「裏切り者」と罵り、苦悩の末、反戦に転じた帰還兵に唾を吐きかけた。
▼米国が分断され、深く傷ついた時代だった。ニクソン氏は、ベトナム反戦デモに対し、「法と秩序」という言葉を繰り返し、沈静化を図った。今、同じ表現をトランプ大統領が用いている。白人警官が黒人男性の首を圧迫して死亡させてから1カ月余り。全米に広がる抗議デモの制圧に軍の投入も示唆し、物議をかもした。
▼映画「風と共に去りぬ」の配信が一時停止され、南北戦争の南軍司令官の銅像撤去などの是非が論争を呼ぶ。人種差別への抗議は、米社会の歴史・文化を根底から問い直す動きへと変化しているようだ。感染症の再拡大や失業も影を落とす今年の独立記念日。重苦しさが漂う7月4日を、人々はどのように迎えるのだろう。