
◎初恋
 「わしに頼まれて。嘘ではないぞ。わしはそなたが好きじゃ。そなたを妻に申し受ける」
 「まあ……」
 
 「わしはいやじゃ。わしはそなたが好きなのじゃ」
 「まあ……聞きわけない」
 「聞きわけないほど好きなのじゃ」
 「それでは姫が困りまする」
 「困ってよいほど、好きなのじゃ」
 「のう竹千代さま、よい子じゃ。放してたもらぬか」
 「よい子ではない。わるい子でよい。放しはせぬ」
 
 ◎忍従無限
 「ーーどのような無理をいわれてもいっさい忍従じゃぞ。よいか、手向かいは固くならぬぞ」
 当方にどれだけ理があろうと、その理は決して口にするな。今日からは岡崎衆は、自分たちも人間なのだということを忘れて生きてくれ。
 それでなければ竹千代さまのお身が危ない。
 「ーー竹千代さまあっての岡崎衆じゃ。よいか。無駄な反抗はいっさいやめて、さすがは岡崎衆、我慢強さは日本一じゃ……その日本一を心に刻んで我慢してくれ」
 
 ◎風雲
 信長の器が大きければ大きいほど、次の戦いも大きくなる……ということは、まだまだ信長では、義元に勝てまい、という裏の不安を意味していた。
 「とにかく、われらは、われらが領内に、徳をしくこと、これ一つじゃ」