◎希望の梅
だれの眼にも竹千代は父親よりも別離された於大の方に似て見えた。
いや、於大の方というよりもその父親の水野忠政によく似ていた。……しかし、だれもそれを外祖父の忠政に似ているとは言わなかった。
父は一族の信頼をつなぎきれずにもだえているし、強国にはさまれた弱小国の悲しさで、縁者の中にも織田派、今川派の暗闘が日に日に目立ってゆく。
ただ一つ、生き残りたいばかりのために、この子の母を追わなければならなかった父も哀れ、子も悲しかった。
強大なときにはない争いが、弱小になると必ず起こる。織田派、今川派があるのはやむを得ないとして、時にはその弱小さにつけこんで野心をのべようとする者すら出て来る。