◎嵐
【ロープの瘤】
「警視庁の者だ。高輪警察まで御苦労してもらいたい」
小石川区指ケ谷町の裏通りにある貧乏人ばかりが住んでいた八軒長屋……
(岡っ引き根性だ! 十手捕縄で、庶民をいじめた、徳川時代の……)
(朝鮮民族を悦服させないでいて、大東亜戦争に協力させようとしている政府……庶民を権力で弾圧している警察当局……)
「牧口は下田でつかまえたよ」
(警視庁は、創価学会へ手を入れたのだ!)
◎飢え
【血を吸う】
「罪もないぼくを餓鬼にしたのは警視庁じゃないか」
空軍は蚊であり、陸上部隊は軽騎兵の蚤(のみ)とタンクの南京虫……空軍の襲撃を防いで毛布をかぶれば、蒸されるように暑く息苦しくて、やはり眠れない。
◎悩み
【頭破作七分】
(日本は、偉大な牧口会長に投獄をもって報いようとしている!)
「法華経を信ずる者をいじめた場合に、首から上に起きる病気は、謗法の報いで本当なんですよ」
◎二撃
【針文字】
「そこへ座れ! 眼鏡を取れ!」
「おまえの大それた罪は、これで許してやる。針のこと、誰にもいってはならんぞ!」
……扉が閉じられると、胸を喘(あえ)がせて机へ突っ伏し、口惜し涙を落とした。
◎外援
【鉄の扉】
「あなたは、作家の子母沢寛さんを知っておりますね」
(これでは鼠も逃げられはしない……)
◎獄窓の生活
【法華経】
(宗学の研究をせよという暗示であろうか)
「よし! 読もう! 読切って見せる! 法華経を読むんだ!」
◎三撃
其の身は有に非ず 亦た無に非ず 因に非ず縁に非ず 自他に非ず 方に非ず円に非ず 短長に非ず 出に非ず没に非ず 生滅に非ず 造に非ず起に非ず 為作に非ず 坐に非ず臥に非ず 行住に非ず 動に非ず転に非ず 閑静に非ず 進に非ず退に非ず 安危に非ず 是に非ず非に非ず 得失に非ず 彼に非ず此に非ず 去来に非ず 青に非ず黄に非ず 赤白に非ず 紅に非ず紫に非ず 種種の色に非ず
◎四撃
【ロシアの男】
「物がない。日本には、本当に、物がない。日本は負けます」
◎人間革命
【地涌の菩薩】
一一の菩薩皆是れ大衆唱導の首なり。各六万恒河沙等の眷属を将いたり。況んや五万・四万・三万・二万・一万恒河沙等の眷属を将いたる者をや。況んや復乃至一恒河沙・半恒河沙・四分の一・乃至千万億那由他分の一なるをや。況んや復千万億那由他の眷属なるをや。況んや復億万の眷属なるをや。況んや復千万・百万・乃至一万なるをや。況んや復一千・一百・乃至一十なるをや。況んや復五・四・三・二・一の弟子を将いたる者をや。況んや復単己にして遠離の行を楽えるをや。是の如き等比無量無辺にして、算数・譬喩も知ること能わざる所なり。
(よし! ぼくの一生は決まった! この尊い法華経を流布して、生涯を終わるのだ!)
「彼に遅るること五年にして惑わず、彼に先立つこと五年にして天命を知る」
時に彼の年は四十五歳であった。
◎人間革命の真髄
ーーあとがきにかえてーー
八軒長屋の家庭革命と、巌理事長の経済的な成功……しかし、それは大御本尊様の大利益の、僅かな一面にすぎない。真の人間革命はまだまだこれからである。
三類の強敵と闘い抜き、三障四魔を断破して、真の大利益・人間革命の真髄を把握されんことを希望する。
それがためには平素の信心が第一である。……今後は益々根強い陰険な迫害となって表れるであろう。
昭和三十二年六月十日 戸田城聖