マーク・トウエーン作
村岡花子役
◎役者のことば
「わたしはこれを急いで書き上げてしまおうなどとは毛頭望まないほどに、楽しんでこの著作をしている。話の筋を君に話したことがあっただろうか? 物語は一千五百四十七年一月二十七日の午前九時から始まるのだ……」
マーク・トウェーンはこの一巻の中で、王子と乞食の位置を換えさせ、それに依ってその二人に銘々相手の負っている生活の重荷を理解し同情することを学ばせようとしたのですが、……ついにヘンリイ八世の王子、エドワード・チュードルを主人公として撰んだのでした。
正しくして世に容れられず人の世のあらゆる艱難と誤解と迫害とを一身に受けたイエス・キリストの一生に就いて知る人が、この小説を読む時、身は尊い王家に生まれながらも虐げられ嘲られて冷い世をさまよい歩き、真の友を求める若き王子の上に、単なる小説の主人公という以上に、何か一種暗示的なものを読み得るようにさえ感じられます。
一九五八年(昭和三十三年)一月
村岡花子