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議論が早くも過熱

2014年08月22日 (金) 10:39

おわりに
今回の実情調査により、中国における様々な労働問題には、戸籍制度に基づく都市 と農村の二元構造が深く関係していること、そして、農村部から都市部へ移動する多 くの出稼ぎ労働者が中国労働市場で大きな役割を果たすとともに多くの問題を抱えて いるという実態が分かった。
この都市と農村の二元構造については、経済が発展途上の現段階では二元構造であ っても仕方がないという考えが、中国の政府関係者の中でも一般的な考えであるとの 指摘がある。これは、農民は都市住民と異なって、土地の使用権が与えられているこ とから、都市に出稼ぎに来て失業しても、いざとなれば農村に帰って農業をすればい いのだから失業問題もなく、高齢になっても農業はできるのだから、年金制度も本来 必要ないといった考えが根底にあるためであるとされている。
農村部と都市部の格差や出稼ぎ労働者の問題の抜本的な解決を図るためには、戸籍 制度の更なる改革が必要と考えられ、今後の中国の大きな課題であるといえよう。
労働契約法制定の影響については、人件費の負担増を原因とした中小企業の倒産や 外資系企業の撤退・夜逃げが起きているとの指摘があるが、現時点では大きな影響は 出ていない 28。
中国政府は、労働契約法の制定により、期間の定めがない労働契約を中心とした長 期雇用を目指すとしている。しかし、現在の中国の雇用慣行は短期の有期労働契約が 中心であり、企業側も労働者側も長期の労働契約や期間の定めがない労働契約の締結 を望んでいない状況にある。このため、労働契約法が制定されたからといって、日本 のように期間の定めがない労働契約を中心とした雇用慣行に移行することは簡単では ないと考えられ、その実現には労使双方の意識改革が必要となろう。
労働契約法には、有期労働契約から期間の定めがない労働契約への移行、経済補償 金の支払、派遣労働者の保護など我が国の労働法制よりも労働者の保護に資する規定 が設けられている。このため、これら労働契約法の各規定が中国の雇用慣行にどのよ うな変化をもたらすかは、今後の我が国の労働政策を考える上でも参考となろう。

28 今回の実情調査終了後の3月3日に開幕した「中国人民政治協商会議」と3月5日に開幕した「全国 人民代表大会」では、労働契約法の見直しをめぐる議論が早くも過熱しているとの報道があった(『日 経新聞』(2008.3.15))。企業経営者は、有期労働契約から期間の定めがない労働契約への移行を定めた 規定の見直しを要求、これに対し、政府や工会側は「かつての丸抱えとは違う」と懸念の打消しに必死だという。今後の動向が注目される。

中国では、本年5月に労働争議調停仲裁法が施行となり、さらに年内に賃金の適正 な引上げを目的とした賃金条例の制定が検討されている。このように今後も労働関係 法令の整備・改善が予定されていることから、中国の労働者を取り巻く環境は大きく 改善されることが期待される。
しかし、賃金の上昇や労働条件の改善は、企業の雇用コストの増大を意味し、これ まで安価で豊富な労働力によって成り立っていた「世界の工場」としての中国の魅力 は低下しつつあるとの指摘がある。実際に、外資系企業の中には中国より人件費が安 いインドやベトナムなどに生産拠点を移転する動きも生じている。このため、特に出 稼ぎ労働者を中心に職業技能の向上など人材育成を図り、労働力の付加価値を高めて いくことが今後の課題となろう。
今後、中国は、労働者の保護とグローバルな競争力の維持の両立が求められること になり、中国の労働政策の真の評価が問われることになる。


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