出稼ぎ労働者の問題として、社会保障制度により保護されている者が少ないという 問題がある。このため、労働社会保障部は、出稼ぎ労働者の労災保険及び医療保険へ の加入に重点を置き、2007 年末までに加入者はそれぞれ 3,966 万人、3,131 万人とな ったと説明している。
また、近年、地域によっては出稼ぎ労働者の不足が問題となっている。今回の実情調 査でも比較的人を集めやすいとされる北京や上海などの大都市の企業であっても 10 20 歳代の若者を簡単に雇用することができなくなってきているとの声が聞かれた。こ の要因としては、?高い経済成長により求人そのものが増えていること、?経済発展により地方においても就職先が増えつつあること、?農村部における若者の人口が減少し ていること、?特に労働集約型の企業で、根気があって手先が器用な若い女性の採用が 求められていること、?低賃金、劣悪な労働条件となっている企業・地域が出稼ぎ先と して敬遠されていること、?最低賃金の引上げにより地方と都市部の賃金格差が減少し つつあることなどが指摘されている。
例えば北京の企業では、出稼ぎ労働者の募集先を隣接した省だけでなく、より遠い地 域にも広げているとの声が聞かれた。しかし、労働者不足といっても募集に対してまっ たく応募者が集まらないというほどの状況ではないようである。
出稼ぎ労働者は、出稼ぎ労働者同士で携帯電話を使い頻繁に連絡を取り合っており、 少しでも労働条件のいい企業・地域に移動するといわれている。このため、特に労働 集約型の企業は出稼ぎ労働者の確保に頭を悩ませているようである。企業は、?内陸 部の遠隔地から労働者を募集すること、?30 40 歳代の高い年齢層を雇用すること、 ?派遣労働者を活用することなどにより、労働者の確保に努めている。また、春節(旧 正月)には、多くの工場は2週間程度休みとなり、出稼ぎ労働者は自分の出身である 農村に帰って行く。しかし、何の連絡もないまま職場に戻ってこない労働者が多いた め、企業は、?出稼ぎ労働者の出身地までバスで送り迎えをする、?春節明けに賞与 や前月分の賃金を支給するなどの対策を取っているところもある。
このように出稼ぎ労働者は、中国の労働市場において大きな役割を果たす一方、様々 な問題を抱えている。今後の出稼ぎ労働者対策の重要なキーワードは「権利保護」と 「秩序のある流入」であるとされているが、都市戸籍の取得制限の撤廃といった抜本 的な対策については、都市への人口の過度の集中によるインフラ整備や社会保障の負 担に都市が耐えることができないという問題があることから、各地方政府の判断に任 されているようである。これら問題の解決に向けて中国政府は戸籍制度の改革につい て検討を開始したとの報道 21 もあるが、実際に改革を実施するのは困難であるとの見 方がなされている。
2008 年の労働社会保障部の方針は、出稼ぎ労働者問題に関する政策措置をしっかり実施することによって出稼ぎ労働者の労働保障権益を保護することとしている。具体的 には、?出稼ぎ労働者への無料の職業紹介等就業サービスを強化することにより、農業 からその他の仕事への転換を促進するとともに、一定の地域では出稼ぎ労働者に帰郷を 促し、その地において創業を促進、?職業訓練の強化、?労働者としての権益の保護を 重点に取り組むとしている。これまでの対策はどちらかというと事後救済的なものであ ったのに対し、2008 年は積極的な取組に重点を移していることが注目される。
21 労働社会保障部の田成平部長が、2008 年3月9日の記者会見で「農民工(出稼ぎ労働者)にとって戸 籍問題は農村から都市へ働きにくる難関である」と指摘、「政府関係部門は、問題解決に向けて戸籍制 度の改革について検討を行っている」と述べて、統一した戸籍制度の導入を目標とする政府の方針を表 明したとの報道がある。 (日中経済通信ホームページ<http://www.newschina.jp/news/category_1/child_31/item_9456.html>)