第18章
ドン・キホーテ主従のやりとり。
次いで、冒険中の冒険あれこれ。
目の前がまっ暗になって、もういやだ、と見切りをつける気になった。あんな殿様は棄てて村へ帰ろう、これまで勤めた分の給料もいらない。インスラを統治させてくれる約束もどうでもいい。
「よいか、さんちょ、人並以上のことをしなければ、人並以上にはなれん。このところ続いた時化(しけ)は、何のことはない、待てば程なく海路に日和のくる嵐、順風満帆の前触れのようなものだ。物事は、いつまでも順調にいくこともなければ、いつまでも悪いわけでもない。それにしても、おまえが嘆くことはない、拙者の身には数々の災難が降りかかったが、おまえに類は及ばない」
「及ばない、ですって、よくおっしゃる」とサンチョが反発した。
第19章
サンチョと殿様の愉快な会話。
加えて、屍との遭遇。
さらに、驚くべき出来事あれこれ。
「またの名を窶(やつ)れ顔の騎士」
「窶れ顔は、金銭や時間をかけて描かせるにはおよびません。人前で顔を覆わず、ペロッと見せるだけで、立派に窶れ顔です。盾の図や絵がなくても、本物を見れば、あら、窶れ顔の騎士様、と人は呼びます。本当にそんなお顔ですよ、天地神明に誓ってもよろしいです。冗談じゃなくて、ほんと。飢え死に寸前の上に歯が無くって、まったく情けないお顔です。わざわざ絵にしなくても、窶れようは一目瞭然です」
第20章
いまをとくめくラ・マンチャの騎士
ドン・キホーテも初めて、
という大冒険。
ただし、危険は前に比べて少ない。
もともと臆病者で勇気とは縁のないサンチョは縮み上がった。
ドン・キホーテは別にして、余程の者でもこれには肝を冷やす。
「…水はいずこにありやと尋ねて来たら、月世界の山の頂から砕けるがごとき凄まじさ」
「いつもいつも奇跡を頼んでばかりでは、神様だってご機嫌ななめになりますよ。…ところが、欲の皮を突っ張って、夢を詰め込んでいた袋が破れてしまいました」
「悪魔がからみます。奴らは不眠不休ですから、なんでももつれさせてしまいますね」
「女心というものはそういうものだ」とドン・キホーテが相槌を打つ。「追えば逃げる、逃げれば追う。それでどうなった」
インスラ(insula、複数形は insulae)は、古代ローマでプレブス(下層階級)やエクィテス(中流階級)のローマ人が住んだ大規模なアパートである。建物の1階はタヴェルナや貸店舗で、上層階が住居になっている。
ローマ都市の都市化の進展により、住宅需要が高まって、都心も郊外も土地が高騰した。結果として一戸建ての住宅は上流階級でなければ持てなくなった。そのため市内に住む住民の多くがインスラと呼ばれるアパートに住んだ。