第10章
ビスカヤ男との激戦のあと、
馬方集団と遭遇し、
危うしドン・キホーテ
「世界広しと言えど、我輩の上をいく勇猛の騎士を見たことはあるまい。改めて剛胆、守って不屈、斬り結んで鬼、組み討って業師、これを越える騎士の武勇を物語で読んだことがあるか」
「何を隠しましょう」とサンチョ。「わたくし、読み物というものを読んだことが一度としてありません。…殿様ほどの武勇にお仕えしたことも一度としてござりません」
第11章
ドン・キホーテと山羊飼
アントニオの詩
目は口ほどにものを言う、
その目にも、オラーラ、
惚れた素振りは見せないが、
君は僕にくびったけ。
「寝るは極楽、起きるは地獄」と従者。
「もう良い」と主人。「おまえは好きなところで寝ればいい。拙者は、騎士という職業柄、夜は寝るより、目を開いて過ごすほうが望ましい。それにしても、耳のほうだが、もう一度、手当を頼む、ずきずきする。尋常の痛さではない」
第12章
ドン・キホーテを囲む山羊飼に、
新たな仲間が加わり、
事件を告げる。
「知ってるかい、村の大事件」
「全然」
「なら、教えてやる」
山羊飼
「麗しのマルセラは、其処彼処(そこかしこ)、男どもを虜にし、ひれ伏させて躊躇(ためら)いもありましたが、いつまでそういう高嶺の花でいられるか、憎らしいほどの気位を凹ませる者は現れないのか、絶美の花を手折る果報者はいないか、娘を知る者の関心は今もっぱらそこにあります」
「わかった」とドン・キホーテ。「実に興味深い話だ。語り口も絶妙。眞(まこと)にかたじけない」
第13章
羊飼に身を曝(さら)すマルセラの一件、
まずはこれまで。
続く事件のあれこれ。
ブレターニャよりお越し召したる
騎士ランサローテ、
万遍(あまね)く淑女をよろめかす
器量稀なる色男。
第14章
故人が世を果敢無んだ詩。
思いがけない出来事が続く。
私は自分の美しさを、欲しいといってえらびとったわけではありません。…こう生まれたのは神の御意志(みこころ)です。毒蛇に毒があるからといって咎めるのはお門違いです。その毒は自然から授かったものです。私も同じように、美しく生まれついたからといって責められる謂(いわれ)はありません。
恋に身を焦がした男、
凍(い)てて凍ってここに安らぐ。
羊を見張る牧人が、
愛恋に報われず身も世も無くしたのだ。
薄情な男嫌いの
魔性の女に殺されたのであるが、
恋や来い、
請われて靡(なび)かぬ非情の暴君(きみ)の
栄え富むこそ理(ことわり)なれ。